極めて異例。スカウト移籍に違約金
“心臓”を失った。2017年11月20日、ボルシア・ドルトムントはクラブ公式HP上で、スヴェン・ミスリンタート氏の完全移籍を発表した。BVBのプロ・フットボール部門を統括するスカウトは、12月1日付でアーセナルのリクルート部門の責任者に就任する。
2021年6月まで契約を残していた45歳のドイツ人の引き抜きに、イングランドの名門クラブから支払われる移籍金の額は1.5ミリオン・ユーロ。1人のスカウトの移籍に違約金が支払われるのは、極めて異例のことだ。
ドイツでは“ダイヤモンド・アイ”の異名を持つ。1972年11月、ドルトムント近郊の工業都市カーメン生まれ。2007年以来、10年に渡ってBVBのためにスカウトとして働いてきた。
彫りの深い風貌は、まるで無限に思考を巡らす哲学者のようである。公の場に姿を現すことを好まないというミスリンタート氏は、インタビューを受けることは滅多になく、寡黙なイメージが付きまとう。だが、“Superauge(慧眼)”が発掘した選手たちの顔ぶれを眺めれば、その功績は一目瞭然だ。言葉は要らない。
香川真司、マッツ・フンメルス、スヴェン・ベンダー、ネヴェン・スボティッチ、ヤコブ・ブワシュチコフスキ、ロベルト・レバンドフスキ、ピエール=エメリク・オーバメヤン、ウスマンヌ・デンベレ、クリスティアン・プリシッチ…。
ミスリンタート氏は「私のキャリアにとってキー・プレイヤーはカガワだった」と明かしている。耳慣れない21歳の日本人選手の分析のために、極東の島国に6度足を運び、何時間ものビデオを撮影したという。
2010年、当時J1所属のセレッソ大阪から獲得したテクニシャン(2009年まではJ2でプレー)は、9月の“レヴィア・ダービー”で一躍名を馳せる。FCシャルケ04から2ゴールを奪い、因縁のライバルに土をつけた。
その勢いで「カガワ」は11年、12年のリーガ2連覇に貢献。35万ユーロの育成補償金で獲得した無名のアタッカーは、1600万ユーロの移籍金を置き土産に、マンチェスター・ユナイテッドに移籍した。