激動の1年に経験した、あまりにも「特別」な物語
そして、忘れてならないのが来季からのクラブ運営の重要性だ。今季、イメージや経営の改善、会社組織の再編、観客動員など、想像を超える成果を出したフロント陣ではあるが、スタッフ増加の一方で、Jクラブの業務について詳しいスタッフが少なく「我々としては満足できていない」とジャパネット関係者が認めるとおり、試合運営や広報面での苦戦も多かった。
また経営難を救うためになされた資金注入をはじめ、応援番組やCMの製作や放送、スタジアムイベントの経費や、グループ会社からの人材投入など、クラブの存在はジャパネットの手厚い支援無しには成り立たなかった。
今後もJ1定着を狙う戦力補強や、前体制のもとで大幅に縮小されたアカデミーの再建などが必要なため、ジャパネットの支援は必要だが、そんな中でも高田明社長が目指す「クラブの自立経営」へ向けて、ジャパネットグループ全体に負担をかけない方向への道筋も示していかなければならない。
そして、それは長崎のサポーターや県民にとっても大きなチャレンジとなるはずだ。企業の後ろ盾を持たない県民クラブが窮地に陥り、ジャパネットという良識ある大企業によって救われ、努力の末にJ1昇格を勝ち取った。
それはあまりにも「特別」な物語だ。特別な物語は、滅多にないから特別である。リーグ戦の戦いは非日常でもいいが、V・ファーレン長崎やJリーグが本来目指すのは、街と人に根ざす日常としての存在であるはずだ。
今季、V・ファーレン長崎は純粋な県民クラブから、企業クラブへとなることで再生された。ここから、サポーターや県民がジャパネットと同じ目線で理解しあい、共に支え合う関係となれたとき、V・ファーレン長崎は県民クラブの自由度と、企業クラブの安定感を併せ持ち、互いの弱点を補いあえる「ハイブリッドクラブ」へとなれるに違いない。
新しいクラブの形を胸に、新しいリーグ「J1」へ。来季は、長崎がサッカーと共にある街になれるかどうかの試金石のシーズンとなるにちがいない。
(取材・文:藤原裕久【長崎】)
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