「僕が決めていればというのが何回もあった。そこに尽きると思います」
このままではジェフが6位に食い込み、一転してヴォルティスは7位で涙を飲んでしまう。まさかの一報をすぐに共有できたからこそ、ヴォルティスのベンチはジェスチャーで「攻めろ」と伝えた。
非情にも祈りは届かなかった。ヴォルティスのリカルド・ロドリゲス監督をして「サッカーというのは非常に残酷なスポーツ」と言わしめた通りの、悪夢のような結末が待っていた。
ベンチに最も近い場所で終戦を迎えたからこそ、渡は動くことができなかった。試合終了後の挨拶の列にもなかなか加われなかった心境を、24歳のエースストライカーは必死に言葉で紡いだ。
「何て言うんですかね……頭が真っ白というか、終わったんだなと。負けた後に言うのはあれなんですけど、本当に負けるゲームじゃなかったというか、勝てるチャンスはいくらでもあったし、そのなかで僕が決めていればというのが何回もあった。そこに尽きると思います」
もっとも、前半31分に喫した失点を取り戻し、ヴォルティスに勇気と活力を与えたのも渡だった。後半開始早々の4分。今シーズンの戦いで大きく花開いた、点取り屋の嗅覚が体を突き動かした。
左サイドからキャプテンのMF岩尾憲が送ったクロスが、MF安西幸輝に跳ね返された。高い位置でセカンドボールを拾ったのは、ポジションを前へ上げていたDF藤原広太朗だった。
すかさず藤原が右サイドへ開いていたDF馬渡和彰へパスを送る。この瞬間に、脳裏にはゴールまでの青写真が鮮明に描かれていたのだろう。ペナルティーエリアのなかへ向けて、渡が一気にスピードをあげて走り込んでくる。
あうんの呼吸で、馬渡がニアサイドへ低いクロスを入れる。ボールウォッチャー気味になっているDF畠中慎之輔の死角で気配を消していた渡は、スプリントを駆けるコースを小さく右へ変えて、畠中の右側から突然現れるかたちで右足を伸ばした。
クロスの落ち際を的確にとらえた強烈なボレーが、ゴールネットを揺らす。虚を突かれた畠中はその場にひざまずき、ゲームキャプテンのDF田村直也が天を仰ぐかたわらで、ボールを拾い上げた渡はセンターサークルへと再びダッシュしていた。