この90分間が奇跡への序章となることを信じて
まさに自発的に、選手がそれぞれの意思で上を向いたと振り返った中村は、J1戦線においてフロンターレが置かれた断崖絶壁の状況も追い風になったとつけ加えた。
「ましてや自分たちが負けたら終わりということが、また痺れるゲームになったというか。そういう状況でまた戦えることへ、頭のなかを切り替えられたこともすごく大きかった」
すでに優勝争いは、首位と快走するアントラーズと2位のフロンターレに絞られていた。そして、浦和レッズがAFCチャンピオンズリーグ(ACL)決勝に進出した関係で、1試合だけ前倒しされて5日に行われた第32節で、アントラーズがレッズを下していた。
この時点で両チームの勝ち点差は7ポイントに開いていた。つまり、フロンターレがガンバに負けた時点で雌雄は決し、アントラーズが2年連続9度目のJ1王者に輝く。黒星を喫した時点で9度目の“2位”が決まる状況は、トーナメント戦でいうファイナルに等しかった。
「サッカーで味わわされた悔しさというのは、やっぱりサッカーでしか晴らせない。その意味ではまだ晴らせてはいないんですけど、今日負けていたら終わりだったので、その意味では最後までぶれずに続けた結果として、次の話ができるようになったのはよかったと思う。
鹿島の試合が先にありますけど、少しでもプレッシャーがかかっていると思うし、だからこそ勝ち点差が『7』だったのを『4』に縮められたことは小さくない。それを鹿島がどう思うかというのは、また彼らの問題なので、僕たちはとにかくいい準備をし続けるだけです」
ACL決勝との兼ね合いで、レッズと対戦するフロンターレの次節は29日に1試合だけ開催される。その前の26日にアントラーズが柏レイソルに勝てば連覇が決まるが、ここまできたら余計なことはいっさい考えない。
ホームでサポーターの声援に応えたい思いと、後がない絶体絶命の状況がメンタルを雄々しく蘇らせ、そこへ百戦錬磨の大黒柱、中村の閃きが加わって手にした価値ある勝利。ガンバを圧倒した90分間が奇跡への序章となることを信じて、フロンターレは人事を尽くして天命を待ち続ける。
(取材・文:藤江直人)
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