監督の去就問題に揺れる豪州。ついに頼れる主将が復帰
W杯を決めた瞬間、アンジ・ポスタコグルー監督に笑顔はなかった。安堵感と達成感のあいまった歓喜の場には似つかわしくない硬めの表情は、なかなか緩まない。彼自身、未だかつて経験のないほどの重圧から解放された瞬間、歓喜よりもまず先に安堵の思いが去来したのだとしても驚かない。
その姿に、最終予選の道程、特にプレーオフに回ってからの時間に彼の双肩に重く圧しかかったプレッシャーの大きさを感じた。ホームの大観衆の前で勝利のホイッスルを聞いた瞬間は、ポスタコグルーにとっては、国内の誰もが感じたことのない質のプレッシャーを、ようやくその両肩から降ろすことができた瞬間でもあったのだ。コーチ陣の祝福を受けた後、噛みしめるように何かを呟きながら、ポスタコグルーはしっかりとした歩みで選手たちが待つピッチの中に歩を進めていった。
「ポスタコグルー監督、W杯最終予選後に辞任の意向」というニュースが報じられたのは、シリアとのアジア予選プレーオフをまさに終えて、次の更なる難関である大陸間プレーオフに全力を注力しようとするタイミングだった。
大事な試合に向けての集中が必要とされる時に、自らの去就に端を発したグラウンド外の喧騒は煩わしかったに違いない。その心中を忖度すれば、「おいおい、大事な試合があるんだ。集中させろ」とでも言いたかったろう。アウェイのホンジュラス戦のメンバー発表時は、メディアからの質問に瞬間的に我を忘れかけた感情的な受け答えをするシーンも見られるなど、いら立ちは隠せなかった。
アウェイ遠征へ向かうサッカルーズ(オーストラリア代表の愛称)には、累積警告で出場停止のマーク・ミリガン、マシュー・レッキー、そしてケガのロビー・クルーズといった予選を通じての主力級の名前がなかった。
それに加えて、直前のリーグ戦で足を痛めたティム・ケーヒルは遠征に帯同はするが、回復途上でコンディションが万全に戻り切っていなかった。それでも、大事な試合に臨むチームに悲壮感はなかった。それには訳がある。チームの欠かせない精神的支柱が戻ってきたからだ。多くの主力の離脱をも上回るほどのポジティブなインパクトを与える復帰を果たしたのは、長引くそけい部の痛みがようやく癒え、久々の合流となったキャプテンのミレ・ジェディナク、その人だ。