京都戦、終了間際に投入された背番号8
アディショナルタイムは5分と表示された。J2第41節、昇格争いに生き残りを懸ける東京ヴェルディが、京都サンガF.C.を1‐0とリード。人数をかけて押し込んでくる京都に対し、東京Vは守りを固め、懸命に逃げ切りを図る。
90+3分、タッチライン際に立つ背番号8が見えた。中後雅喜だ。最後の守備の引き締め、および選手交代によってゲームの流れを切り、時間を稼ぐ意図も含まれる。結局、中後のプレータイムは3分にも満たない。目立った仕事もない。最終的に勝利のピッチに立っていたこと。それがすべてだった。
「相手に点をやることなく、勝点3をつかむ。その役目は監督から言われなくても自分で感じていましたからね。声がかかるまで、そういうつもりで準備をしていました」(中後)
致命的なエラーを避けるべく味方に落ち着きを与え、ゲームを無事に閉じる仕事。誰にでもできる仕事ではないが、率先してやりたいと手を挙げる選手はまれだろう。ボールを持って、違いを出せると自負する選手ならなおさら。
「メンバーから外れ、ここに来られなかった選手もいます。チーム事情、選手間の競争の結果、我慢しなければいけないときはある」
僕の頭には、2015シーズンの中後の活躍が鮮烈に刻まれている。正確なロングパスで攻撃の起点となり、守備でも中盤のフィルター役として貢献し、40試合4得点。あのときの東京Vは、間違いなく中後のチームだった。最終節までJ1昇格プレーオフ出場の望みをつないだが、セレッソ大阪に0‐2と敗れ、8位に終わっている。