ネイマールという盾。無関心という才能
モナコからパリSGに開幕まもなく移籍、要した金額は1億8000万ユーロ(約230億円)という巨額だった。ネイマール移籍の直後だったので驚きも半分だったが、18歳の選手につけられる値段ではない。いちおう期限付き移籍で、モナコへの支払いは来季になるようだがファイナンシャル・フェアプレーに抵触しないための方便である。
今季のパリSGは本気でCLを獲りにいくつもりのようだ。今やカタールの国策クラブといっていい。バルセロナへのスポンサードを引き上げ、そのぶんをパリSGへ回している。2022年ワールドカップの成功をバネにスポーツ振興を図るため、カタール政府は巨額の予算を組んでいる。ネイマールの移籍金などものの数ではない。
スポンサー料が収入の70%を超える異常性をリーガ・エスパニョーラ会長が指摘し、パリSGのCLからの除外を要求している。UEFAで埒が開かなければEUに提訴するという。
パリSG(=カタール)はCLのライバルとなるバルサを目に仇にしているようだ。資金の引き上げとネイマールの引き抜きだけでなく、ヴェラッティのバルサ移籍をブロックし、バルサがほしがっているコウチーニョを獲得するという噂も出ている。
スペインのメディアは「ネイマールはバルサへ戻りたがっている」と報道し、ウナイ・エメリ監督が即座に否定。ネイマールの守備免除、練習中の激しい当たりの禁止など、特例が契約に盛り込まれているという報道もあった。クラブの顔であり、対バルサ戦争の核であるネイマールへのプレッシャーは増大している。
エムバペにとってはネイマールが盾になってくれるので好都合なのだが、マルセイユとのル・クラスィクではメディアから最低の評価で酷評された。最初の1対1のデュエルで酒井宏樹に負け、その後も存在感を示せなかった。
最後に退場を食らったネイマールも酷いものだったが、それでも1点は決めている。エムバペは何もできなかった。さらに次のニース戦でもイージーミスと覇気のないプレーぶり。CL第4節のアンデルレヒト戦ではスタメン落ちも予想されたが、普通に出てきて何事もなかったかのように調子を戻していた。
このあたりも大物感十分。とはいえ、まだ18歳だ。レキップ紙とフランス・フットボール誌、さらにカナル・プリュスとTF1、サッカーに多大な影響力を持つメディアは全部首都パリにある。
パリSGの話題は需要が大きく、あることないこと何でも取り上げられる。パリSGは過去に何人もの前途有望な才能を潰してきたクラブでもあるのだ。月並みな言い方だが、どれだけ地に足をつけていられるか。すでに巻き込まれている巨大プロジェクトから、いい意味で無関心でいられるかどうか。
この状況下で無邪気にプレーを楽しみ、精進を続けていく平常心がカギになりそうだ。異常な状況下において普通でいること、ジダンが持っていた才能に恵まれていれば、エムバペも天高く飛ぶだろう。
(文:西部謙司)
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