ンバッペ、ムバペ、エンバペ?
ギョエテとは俺のことかとゲーテ言い
斎藤緑雨の作った川柳といわれているがはっきりしない。文豪ゲーテはグョエテ、ギョーツ、グーテ、ゲエテなど何種類もの表記がされていたそうだ。キリアン・エムバペも、ンバッペ、ムバッペ、ムバペ、ンバペなど、ゲーテ並のバラバラ加減である。
フランス語読みならエムバペかエンバペだろう。父親はカメルーン人、母親はアルジェリア系フランス人、アフリカ風だと口を開かずにンバペと発音するらしいが、ここではエムバペを採用したい。ガンバ大阪のエムボマもンボマじゃなかったので。
フランス人の名前は難しくて、元フランス代表でパリ・サンジェルマンの監督も務めたルイス・フェルナンデスはスペイン風の読み方だ。では、ポルトガル系のロベール・ピレスがロベルト・ピレスかというとそうはならない。フランス語読みだったり、そうでなかったりする。
そもそも日本語のカナカナにしている時点で現地音とは違う場合が多い。ジネディーヌ・ジダンはジダヌもあったし、ミッシェル・プラティニはプラチニだったこともある。中国では全部漢字にしてしまうので、実況を聞いていても選手の名前が全然わからないことがあった。発音の近い漢字をあてているのだが、どうしても漢字のほうの発音に引っ張られてしまうのだろう。
さてエムバペ。驚異の18歳。クレールフォンテーヌ国立育成所→ASモナコという経歴から“アンリ2世”と呼ばれている。ただ、同年齢のティエリ・アンリも見ているが、エムバペのほうが上手い。
十代のアンリはまだ自分の才能と折り合いをつけられていなかった。アンリには「5メートルのアドバンテージ」があって、対峙するDFの背後に5メートル以上のスペースがあるときは絶対的だった。そこへボールをプッシュして競走になれば必ず勝てたからだ。
これはアンリの選手時代を通してのアドバンテージだったが、デビューしたころはむしろそれだけだった。最初は無敵だったが対策されるとすぐに行き詰まった。それも乗り越えてスーパースターになっていくのだが、エムバペにはそんな壁すらなさそうなのだ。