今シーズン3度目の横浜FM戦で発揮された『らしさ』
勝利の要因を、中村俊輔は「後半の入り方だと思う」と分析する。後半頭から投入された上原の溌剌としたプレーがチームを活性化させ、試合をひっくり返した。相手が古巣かどうかに関係なく、上位進出のために負けられない一戦をモノにしたことに、10番は喜びを見出している。
「(横浜FMの選手と)試合をやりながら会話しているし、上達している選手もいて、楽しくやれた。勝負事なので厳しくいく時は厳しく行くけど、やっぱり仲間は仲間なので」
サックスブルーのエースは勝利を追求しながら、チームを発展に導くことに力を注いできた。敗れた試合の後でも、収穫があればその価値の大きさを説いた。一歩ずつ階段を登ろうとする、成長途上のチームに自分が何をもたらせるかを考えながら戦ってきた。
エコパスタジアムでのゲームでも、右サイドハーフの位置で周囲をサポートするだけでなく、対峙した気鋭のサイドバック・山中亮輔の動きにも懸命についていく。チームのために身を粉にして働きながら、「楽しくサッカーをする」と話していたように、磐田の道標としてだけでなく一人のプレーヤーとして90分を全うしたように映った。
『平常心』を意識しすぎるあまり本来の輝きを放てなかった4月の初対戦、磐田の選手として「世界で一番好き」なスタジアムである三ツ沢での天皇杯準々決勝を経て、今シーズン3度目の横浜FM戦で中村俊輔は『らしさ』を発揮した。
この日の勝利で上位に肉薄し、最後まで痺れる戦いに身を置ける権利を掴んだ。そして天才の楽しげな姿には、勝敗を超越した魅力が詰まっていた。
(取材・文:青木務)
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