際立つディ・フランチェスコ監督の手腕
2点とも、ローマ側には共通した戦術的な狙いが見られた。中盤省略で素早く前線へボールを送り、チェルシーの最終ラインを下げさせる。前線にはジェコがおり、そのため3バックの注意も彼に向く。そうしてスペースができたところに、エル・シャーラウィがアウトサイドから中へと走りこんでくる。この動きに対し、対面でマークしていたアウトサイドの選手はついてこれない。守備戦術におけるチェルシーのウイークポイントが見抜かれていたということなのだろう。
そしてエル・シャーラウィがCLの試合で2得点を挙げたことは、実はミラン時代にもなかったことだった。そもそも彼は昨季、ルチアーノ・スパレッティ前監督(現インテル)のもとでポジションを見つけられていなかった。それが華麗なる復活を遂げたのは、やはり今季から就任したエウセビオ・ディ・フランチェスコ監督の手腕によるところが大きい。
サッスオーロの5年間で“天才”ドメニコ・ベラルディを開花させたディ・フランチェスコは、エル・シャーラウィを同じ4-3-3の右ウイングとして起用した。守備時には中盤のラインまで下がってアウトサイドを守ると同時に、中へと走らせてゴールを狙わせる。走力とシュートセンスのある彼に、このポジションは合っていた。「私の戦術を実行する上では理想の選手」だとディ・フランチェスコ監督は語っていたが、その選択がチェルシー戦での成功をもたらすことになった。
しかしディ・フランチェスコが仕掛けたのは、エル・シャーラウィをフィニッシュ役とした速攻だけではなかった。彼の組織戦術でローマは後半、チェルシーを制圧してしまった。
「まずサイド攻撃を2、3修正した」とはディ・フランチェスコ監督。サイドアタッカーに相手のウイングバック裏のスペースを狙わせ、そこにダニエレ・デ・ロッシを中心に素早くパスを入れさせた。こうすることで、裏を突かれたチェルシーの最終ラインは後ろに押し下げられることになる。
そして、ローマの最終ラインはハーフウェーライン際まで一気に押し上げを図る。チェルシーの中盤が間延びしていたところには、逆にローマが密集を作る状態となる。チェルシーの守備陣がボールを拾って繋げようとしても、そこに立ちはだかるのはボール奪取に長けたデ・ロッシにナインゴラン、そしてケビン・ストロートマンの3人だ。ボールを奪い返して波状攻撃を繰り出したローマは、パスの本数や支配率でもチェルシーを凌駕するようになった。