昨オフは湘南から離れる選択が脳裏をよぎった
1年前のいまごろは、最も深い闇のなかにいた。湘南ベルマーレの曹貴裁監督と親交があり、戦うカテゴリーが異なった昨年はよく連絡を取り合っていたファジアーノ岡山の長澤徹監督は、同じ1968年度に生まれた盟友が胸中に抱いていた思いを「闇」という言葉で表現した。
大宮アルディージャに2‐3で屈し、2試合を残して通算4度目のJ2降格が決まったのが昨年10月22日。その後は契約延長のオファーをもらっていたベルマーレを含めたすべてに断りを入れて、毎年オフに訪れては新たな刺激をもらっていたドイツに渡ろう、という考えが脳裏をよぎってもいた。
「自分の将来を考えたときに、たとえば半年くらいドイツへ行って、あるチームをずっと追いかけながら練習を見ては監督のミーティングを聞いて、試合を観戦していたら間違いなく何らかの引き出しが増えるという思いが自分のなかにはあった」
しかし、最終的には思い留まり、ベルマーレとの契約を延長。6年目となる今シーズンの指揮を執ることを決めた。気持ちを揺さぶったのは、降格が決まった直後に初めて行われた練習だった。
残された2つのリーグ戦、そしてベスト8に勝ち残っている天皇杯全日本サッカー選手権大会へ。降格は決まっても「湘南スタイル」を極める戦いは続く、とばかりに情熱をほとばしらせる選手たちの姿を見ているうちに、気がついたときには曹監督の涙腺は決壊していた。
「湘南というチームが自分を求めていて、選手たちの目も死んでないと感じたときに、僕が携帯電話の充電をしていていいのかと。まだ電池が切れてもいないとも思えた状況で、新しいものを得ようと考えていた自分に違和感があったというか」
もっとも、新たなチーム作りは困難を極めた。キャプテンのMF永木亮太(鹿島アントラーズ)、ハリルジャパンにも選出されたDF遠藤航(浦和レッズ)らの主力が新天地へ旅立った2015シーズンのオフに続いて、5年間にわたって「10番」を背負ってきたMF菊池大介(レッズ)らが移籍。J2を独走で制した2014シーズンを知るメンバーは、わずか5人に激減していた。
「正直、どのようにチームを作っていこうかな、という思いはありました」