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ほぼ完璧、だが未完成のような恐ろしさ。万能型FWケイン、生き残り戦略で培った演算能力【西部の目】

シリーズ:西部の目 text by 西部謙司 photo by Getty Images

神童よりも努力家。ティエリ・アンリの事例

 7歳でアーセナルの育成チームに入るが、本人はそのころからスパーズのファンで、家族もそうだったらしい。スパーズとアーセナルはともにロンドンを本拠とするライバルだ。

 ケインは11歳のときに念願かなってスパーズに入団している。ユース時代はMFの中央でプレーしていた。やがて攻撃的MFにポジションを上げ、さらにFWになっている。少年時代のケインは体が大きくもなく、スピードもなかったという。

 神童と呼ばれる選手がいる。フランスが育成機関を立ち上げたときの1期生だったニコラ・アネルカがそれで、その後も彼を上回る素材はいないそうだ。同時期にはティエリ・アンリがいるが、13歳のアンリは神童ではなかった。

 背が高く足も速く、得点を量産していたが早熟系の選手と考えられていたのだ。そのころのアンリの写真を見ると、チームメイトのジェローム・ロテンの倍ぐらい身長がある。あれだけ体格に恵まれていれば、少年サッカーで得点を量産するのは難しくない。アンリはそこを割り引かれて見られていたようだ。

 ただ、アンリは努力家だった。クレール・フォンテーヌの寮に入る前まで住んでいたパリ郊外のレズリュスの運動公園には“アンリの壁”と呼ばれるコンクリートの壁がある。さながら「2001年宇宙の旅」に出てくる謎の壁面“モノリス”を横倒ししたような壁は表も裏も使えるように公園の真ん中にポツンと立っていた。

 アンリはその壁に向かって飽くことなくボールを蹴っていたという。右足のインサイドでファーポストへ巻いていく独特のシュートは、もうそのときにはモノにしていたそうだ。体格や才能よりも、努力が後のアンリを作り上げたのだ。才能の塊だったアネルカより、はるか高みまで上り詰めている。

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