ベテランの戦術眼。「しっかりと周りを見ることができていた」
そして、反対側のタッチライン際から抜け目なくオーバーラップしていく前田の姿を、福森のポジションを埋めるべく、敵陣の左サイド寄りにポジションを取っていた稲本はしっかり視界にとらえていた。
「(前田が)完全にフリーでしたし、永井のほうにウチの2人がいっていた。あの場面では、ゴール前へ帰れるのが僕しかいなかった。リスク管理じゃないですけど、しっかりと周りを見ることができていたと思うし、上手く帰っていてよかったな、というシーンでしたよね」
ドリブルを仕掛ける永井の視界には横山と体勢を直して追ってきた菊地に加えて、ペナルティーエリアのなかへいままさに侵入しようとしていた前田の姿が飛び込んできた。
「シュートを打とうと思ったら、遼一さんがフリーで走っているのが見えたので」
同点ゴールを奪うためのベストのシナリオとして、ペナルティーエリア内を横切る緩やかなパスを選択した。50メートル近い距離をトップスピードで戻ってきていた稲本の姿は永井も、そしてシュート体勢に入ろうとしていた前田もとらえていなかったのだろう。
交代でピッチに入った直後とあって、ピッチ上の誰よりもフレッシュだった稲本は一気にギアをあげて、ボールと前田の間に、死角を突くように入り込んだ。まさに虚を突かれたのか。稲本のユニフォームを引っ張ること以外には、前田にはなす術がなかった。
「よし来た!」
心のなかでこう呟き、ガッツポーズも作った瞬間にはスピードを緩め、クリアではなくパスカットから菊地へのバックパスを選択できるほどの余裕まであった。
「その後もしっかりとボールをつなげた点でもよかったですね。勝っている状況で、ああいうプレーを求められていたと思うので」
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