投入直後に訪れたあわや同点の大ピンチ
ファーストタッチで大仕事をやってのけた。あわや同点の大ピンチを防ぎ、開幕からアウェイで苦戦を強いられてきた北海道コンサドーレ札幌に、待望の初勝利を導いた影のヒーローはわずか1分前に投入されていた38歳のベテラン、MF稲本潤一だった。
間断なく雨が降るFC東京のホーム、味の素スタジアムに乗り込んだ21日の明治安田生命J1リーグ第30節。2‐1とリードしていたコンサドーレは後半30分に稲本を投入して中盤の守備を締めながら、チャンスと見るや積極的にダメ押しとなる3点目を奪いにいった。
数的優位を作って左サイドを崩し、最後はMF石川直樹がクロスを上げる。ターゲットは後半2分、14分と2ゴールをあげていたFWジェイ。しかし、キャプテンのMF高萩洋次郎が必死の守りで190センチ、89キロの巨漢ストライカーとの肉弾戦を制した。
そして、50メートルで5秒8の快足を誇るFW永井謙佑へ一縷の望みを託して、ペナルティーエリアのやや外側から50メートル近くもあるロングパスをFC東京から見て左サイドへ蹴り込んだ。頭上を通過していくボールを見た瞬間、稲本は「危ない」と閃くものを感じていた。
「永井のプレースタイルはわかっていましたし、おそらく速さで菊地(直哉)が背後から(ボールを)取られると予想できたので」
ロングパスに対応したのは、3バックの右を務める菊地直哉。しかし、稲本が危惧した通りに、パスが出されたときは5メートル以上もあった永井との距離がみるみる縮まっていく。そして、ペナルティーエリアの左側のあたりでついに追いつかれ、後方からプレッシャーを受ける。
トップスピードで走ってきた反動もあって、菊地はたまらずバランスを崩してしまう。すかさず永井がボールを奪い、コンサドーレのゴールへ向かって右へ急旋回する。3バックの中央を務める横山知伸も永井の脅威に対応するため、慌ててポジションをシフトしてくる。
このとき、コンサドーレから見て左サイドには広大なスペースが生じていた。本来ならばそこにいるべき福森晃斗は前線での崩しに参加していて、まだFC東京のゴール前にいた。相手の守備陣に生じた一瞬の隙を百戦錬磨の36歳、FW前田遼一が見逃すはずがない。