「久々だったかな、あれだけ時計を何回も見たのは」(槙野智章)
心技体のすべてがほぼ完璧なハーモニーを奏で続けた、サッカー人生のなかでも究極の会心劇と位置づけられる90分間だったのだろう。
日本勢として9年ぶりの決勝進出決定を告げる主審のホイッスルが、埼玉スタジアムの夜空に鳴り響く。その瞬間に浦和レッズのDF槙野智章は両拳を強く握りしめ、腰をやや落とした体勢から何度も雄叫びをあげては、虎の子の1点を死守した末にもぎ取った勝利への喜びを爆発させた。
「やっぱり嬉しかったですからね。久々だったかな、あれだけ時計を何回も見たのは。全然進まなかったからね。それだけ時間が早く経ってほしいと思いながら、プレーしていました」
4分間が表示された後半のアディショナルタイムが、とてつもなく長く感じられた。それだけに、勝利の瞬間に訪れた喜びは極上だった。上海上港(中国)をホームの埼玉スタジアムに迎えた、18日のAFCチャンピオンズリーグ(ACL)準決勝第2戦。試合はいきなり動いた。
司令塔・柏木陽介が放った左コーナーキックに、MFラファエル・シルバが完璧なタイミングでヘディングを見舞う。敵地での第1戦を1‐1で引き分けながら貴重なアウェイゴールを奪い、スコアレスドローでも決勝へ進出できるレッズが一気に優位に立った。
もっとも、第1戦に続いて左サイドバックとして先発していた槙野は、気持ちを引き締めることを忘れなかった。
「一番怖かったのはキックオフのホイッスルが鳴ったときから腰が引けた、引き気味なサッカーをすること。試合前のロッカールームでもずっと言っていたことですけど、試合へのいい入り方と先制点を取れたことで、自分たちらしい試合運びができたのかなと」