夏には移籍を容認されていたが…4年の契約延長へ
それでも、ウィルシャーは引く手数多である。AFCボーンマスは昨シーズンに続くローン移籍を申し込み、ACミランとユベントス、ASローマも興味を抱いていた。トラブゾンスポルとは交渉成立間近、とも伝えられた。天才レフティが衰えていない証である。
諸条件が折り合わず、結局はアーセナルに残留したものの、数多くのオファーにウィルシャーも気をよくしたに違いない。先発出場したバテ・ボリゾフ戦(ヨーロッパリーグ第2節)でも、鮮やかなボールさばきで4-2の快勝に貢献している。試合後、ヴェンゲル監督も「マッチフィットネスが整ってきた」と相好を崩した。
現時点で、ウィルシャーの優先順位は決して高くない。サンティ・カソルラがアキレス腱の負傷から一年以上も立ち直れないでいるもかかわらず、中盤センターとしてはグラニト・ジャカ、アーロン・ラムジー、モハメド・エルネニーに次ぐ4番手である。プレミアリーグには一度も出場していない。
だが、ヴェンゲル監督が志向するリズミカルなアタッキングフットボールを実践するには、パスセンスと状況判断にすぐれたウィルシャーが、フォーメーションの違いにかかわらず絶対に必要だ。コクラン、エルネニー、ジャカは雑すぎる。ラムジーの持ち味は一列前でこそ発揮され、カソルラには復帰のめどが立っていない。
また、ヴェンゲル監督が柔軟性をもって人選にあたり、ウィルシャーを二列目で起用すると、彼の機動力とパスセンスはより活かされるかもしれない。メスト・エジルほど優雅ではないが、ドイツ代表のアーティストよりもチームの歯車であることに拒否反応を示さず、いざとなったら乱闘も辞さない武闘派……それが、ウィルシャーという男だ。
そしていま、ヴェンゲル監督の考え方が変わりつつある。この夏は移籍を容認していたが、ウィルシャーが限られた機会のなかで好パフォーマンスを披露しているため、4年間の契約延長を打診する予定だ。この期間は戦力として計算している証であり、マッチフィットネスがさらに整えば、プレミアリーグで先発する日も近いだろう。
ジャック・ウィルシャー、25歳。復活のときが、いよいよ近づいてきた。
(文:粕谷秀樹)
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