タフネスさと器用さが同居。異色のサイドバックの挑戦
代表候補が続いたことで、このままズルズルいくのかと車屋本人は心のどこかで思っていたという。それだけに「正直、驚いているのが一番ですけど」と初々しい笑顔を浮かべてもいた。
ただ、代表入りというチャンスを得た以上は遠慮しているわけにもいかない。初めて間近で接する長友から「いろいろなことを聞けたら」と貪欲な一面をのぞかせる車屋へ、中村も笑顔でエールを送る。
「身体能力が高い分、考えないでボールを取れちゃうというか、そういうところに逃げがちになってしまうので。それはそれですごいことなんですけど、やっぱり世界を相手に戦うときには、それだけではダメだと思うので。今回はぜひ試合に出てほしいよね。
日本代表という箱のなかで、ああいう選手たちと一緒にプレーするのはすごくいい経験になるから。これで帰ってきて、どのように変わっているのか。個人的にはめちゃくちゃ楽しみにしている。コミュニケーションがちょっと心配ですけど、ボールで会話してこいと言いました」
左サイドバックに転向してまだ3年目。成長の余地を十分に残しているところへ、今シーズンはコントロールを重視した、左利きの左サイドバックにしか放てない独特の低速クロスも身につけつつある。
10日のハイチ代表戦まで同じ時間を共有していくなかで、たとえば大迫勇也(ケルン)や杉本、武藤嘉紀(マインツ)とのホットラインを開通させれば、未来へとつながる道の視界は一気に良好になる。
「練習の成果次第だし、練習でしっかりできれば試合にも出られると思うので。代表に入れたことでそこも狙える位置にいると思うので、このチャンスを大切にしていきたい」
そことは、言うまでもなく来年6月14日に開幕するワールドカップ・ロシア大会のピッチに立つこと。タフネスさと器用さを同居させる、異色の左サイドバックの挑戦が幕を開けた。
(取材・文:藤江直人)
【了】