左足から放たれた丁寧で緩やかなクロス
ゆっくりとしたインスイングから、利き足である左足のインサイドでボールの芯を軽く蹴った。緩やかなカーブ回転がかかった山なりのクロスが、セレッソ大阪ゴール前へと落ちていく。
ターゲットはニアサイドで存在感を放つ187センチの長身センターバック、マテイ・ヨニッチの後方に広がるスペース。あうんの呼吸で、キャプテンのFW小林悠が勢いよく飛び込んでくる。
ホームの等々力陸上競技場で9月30日に行われた明治安田生命J1リーグ第28節。日本代表に初招集された川崎フロンターレの左サイドバック、車屋紳太郎が新たな武器を発動させた。
「ちょっとフワッと置く感じで、勝負のボールでした。(小林)悠君からもああいうボールをよく要求されているので。右サイドからサイドチェンジのパスが来て、こっちがかなり空いていたのでほぼフリーだった。いいボールを上げられたのかな、と思っています」
2点のリードで迎えた後半7分だった。右サイドにおける細かいパス交換から一転して、MF中村憲剛が大きなスペースが広がっていたペナルティーエリアの左側へ絶妙のパスを通した。
ワンバウンドしたボールを胸でトラップした車屋が、落ち着いて左足でボールを整えて顔を上げる。慌てて距離を詰めてきたセレッソの右サイドバック、松田陸が視界に入ってもまったく動じない。
利き足であり、なおかつゆっくりとスイングするから正確無比なコントロールをつけられる。速いクロスを予測していたのか。もう一人のセンターバック、山下達也の反応も微妙に遅れてしまう。
完璧なタイミングで宙を舞う小林との空中戦は山下に軍配が上がるが、体勢を崩していたゆえに大きく弾き返せない。右サイドに転がったボールを、DFエウシーニョが豪快にゴールへ蹴り込んだ。
セレッソの戦意をさらに喪失させる3点目を導いた、車屋をして「ボールを置く感じで蹴った」と言わしめたコントロール重視の低速クロスは、鬼木達監督が課す練習のもとで磨かれたものだった。
「監督が時々クロスのメニューを入れてくれるんですけど、そのなかで速いボールを蹴るだけではなく、緩いボールも蹴るトレーニングをさせてくれるので。そこは使い分けられるようになってきているのかな、と思っています」