ベイルの左、カルバハルの自由
各ポジションに圧倒的な実力者を揃えるレアル・マドリーは、伝統的に選手の能力を生かして勝利を重ねてきた。強い奴を集めて強いという典型だ。だからレアルの監督に求められるのは、第一にスターたちを気持ち良くプレーさせること。
ところが、全員に気持ち良くプレーさせるのは難しい。サッカーはそんなふうにはできていないうえ、補強方針がコレクションに近いのでポジションの重複などは当たり前。その結果、必ず割を食うスターが出てくる。
ガレス・ベイルもその1人だ。BBCの一角、会長の寵愛を受けるウェールズ人が割を食っているとは思えないが、彼のベストポジションは左サイドなのだ。しかし、ロナウドが左を好むのでベイルは右へ回されていた。どの監督もベイルを左に定着させていない。
ところが、ドルトムント戦は基本的にベイルが左、ロナウドは右だった。
ベイルはアクセルを踏み込んだときに最高のプレーをする。驚異的なトップスピード、しかもそのまま左足で強烈なシュートやクロスボールを蹴ることができる。右サイドのベイルは常にブレーキをかけなければならず宝の持ち腐れだった。そもそもロナウドは左右どちらでもプレーできるのだから、ベイルの左、ロナウドの右が合理的なのだ。
左で起用されたベイルはカルバハルからのパスをボレーで押し込んで先制。2点目もアシストした。クロースの縦パスで抜け出し、ゴール前へ詰めたロナウドへ丁寧なロークロスを供給している。疾走する2台のレーシングカーのようだった。今や放出候補の筆頭とメディアに書かれているベイルだが、これが巻き返しのきっかけになるかもしれない。
ジダン監督はチームのバランスを微妙に変え始めたようだ。
ベイルの左もそうだが、上下動専門だったカルバハルがインテリオールの位置でもプレーしている。そのときはカゼミーロやモドリッチが右SBのポジションを埋めていた。誰かが誰かを支える組織から、誰もが誰かを補う組織へ。少しずつだがシフトしているのではないだろうか。