ゴール後、両手で作った「F」の指文字
日本列島を縦断した台風18号の影響で、強い雨に打たれ続けた16日の明治安田生命J1リーグ第26節。雨脚を切り裂く放物線をかけて先制点を突き刺し、開始早々の前半9分に試合を動かしたのも齋藤だった。
センターバックのパク・ジョンスから、左タッチライン際に陣取っていた左サイドバックの山中亮輔にパスが入る。このとき、間近にいたMF天野純へ、右サイドバックの小池龍太が猛然と詰めよってきた。
「ウチの左サイドはけっこう研究されてきていて、後ろのスペースを空けてくれないチームが多い。けど、柏とかどんどん前からプレスにくるチームは、サイドバックとセンターバックの間が空いてくるので」
天野が予想していた通りの状況がマリノスの左サイド、レイソルにとっては右サイドに生まれる。司令塔の天野にボールが預けられると小池は先読みし、素早くアプローチをかけたのだろう。
必然的に左タッチライン沿いには、大きなスペースが生まれる。山中がすかさず縦にドリブルを仕掛け、レイソルの右センターバック、中谷進之介がつり出されるかたちでマークについてくる。
左サイドで山中と縦のコンビを組む齋藤が、中谷が本来守るべきスペースへフリーランニングをはじめた直後だった。山中のクロスを中谷が体勢を崩しながらも弾き返すと、こぼれ球が齋藤に当たった。
しかも、ボールは齋藤の進行方向に転がっていく。左隅からペナルティーエリアへ入ったあたり。レイソルの選手は誰も反応できていない。背番号「10」は迷うことなく、思い切り右足を振り抜いた。
ダイブしながら懸命に伸ばされた、中村の右手も届かない。緩やかなカーブの軌道を描いた一撃が、右側のサイドネットに突き刺さる。齋藤は両手で『F』の指文字を作りながら、喜びを爆発させた。
「先週に名前に『F』がつく、病気にかかっている男の子と会って約束をした。だから、テレビカメラを探して『F』と。その子の名前は出しちゃいけないけど、これくらいだったら大丈夫でしょう」