「勝てなかったことのほうが僕的には大きい」
喜びよりも悔しさ。安ど感よりも後悔の念。遅まきながら今シーズンの初ゴールを決めた、柏レイソル戦後の取材エリア。横浜F・マリノスのキャプテン、MF齋藤学は破顔一笑とはならなかった。
「点を取れたことはよかったですけど、勝てなかったことのほうが僕的には大きいので……」
脳裏には1‐1のままアディショナルに突入していた、後半49分に訪れたビッグチャンスが何度も浮かんでは消えていた。決めていれば勝てた。だからこそ、ややネガティブな思いのほうが上回る。
ハーフウェイラインをちょっと越えた右サイドで、パスを受けたMFマルティノスが一瞬のタメを作る。このとき、レイソルの最終ライン全体が右側にスライドした隙を齋藤は見逃さなかった。
後半途中から右サイドバックにシフトしていた伊東純也の左側には、大きなスペースが広がっている。タイミングを見計らって飛び出すと、あうんの呼吸でマルティノスからスルーパスが送られてきた。
「でも、オフサイドかなと思って。一瞬だけど、もうひとつ(飛び出すのを)遅らせようと。そうしたら伊東純也の足がちょっと速いから。伊東純也の前へ出よう、と思った瞬間だったんですよ」
視界に入っていたのは、懸命に追いすがってくる伊東だけ。50メートルを5秒8で走破する伊東のスピードに気を取られている分だけ、日本代表GK中村航輔が飛び出してきていることがわからなかった。
最終的な攻防はゴールエリアのあたり。中村はそこから前に出ず、腰を落とし、齋藤がどんな動きをしても反応できる体勢を整えている。右側に迫る伊東を避けるように、齋藤が左へコースを切った直後だった。
中村も左へ反応し、長いリーチを目いっぱい伸ばして齋藤の行く手を阻む。ボールは中村の体に当たって弾き返され、こぼれ球もしっかりとキャッチされた。千載一遇のチャンスが潰えた瞬間だった。
「キーパーが前に出てきているのが見えていなくて。(シュートを打つには)ちょっと距離が遠いかな、と思っていたんですよね。そこは僕の力不足。決定的なチャンスがあったのに、そこで仕留められる力がまだない。鹿島にはあるもので、僕たちにはまだ足りないものだと思っています」