何も起こらなそうなボールから生まれたゴラッソ
時刻は午後5時になろうとしていた。メッシを擁するバルサをホームに迎え、ヘタフェが久々に自分たちを大きく感じられた心地の良い午後だった。
前半39分、一見したところ何も起こらなさそうなボールに対し、柴崎岳の頭脳が咄嗟に導き出した考えをその左足が完璧に実行に移す。正確なボレーからのゴラッソ。歴史に残る1点だった。
データの上では、バルサとレアル・マドリーの両チームからゴールを奪った史上初めての日本人選手として。ヘタフェのサポーターにとっては、強大な相手に歯向かう醍醐味を久々に感じさせてくれたゴールとして。
バルサへの恐れを抱きつつ本拠地コリセウムを訪れていた満員のファンは、結果に落胆しての帰宅を強いられることになったが、言葉にならない誇りも同時に感じていた。
慎ましい選手たちの奮闘と、柴崎の強烈な一撃により、バルサのスター選手たちをかなりの時間抑え込むことができていたからだ。
セグンダで過ごした1年間を経て、ヘタフェは再びエリートの仲間入りを果たし、スタジアムを埋めた1万6千人のファンは素晴らしい雰囲気を生み出していた。初めて観戦に訪れた者もいるとしても、誰もが旧知の仲であるかのように感じられる。コリセウムはそういう場所だ。
ヘタフェのサポーターというのは、本拠地の町の中でも珍しいタイプの人間であることから説明しなければならない。マドリードからわずか15kmに位置するこの界隈では、大部分の住人はレアル・マドリーとアトレティコのファンに二分される。
青いユニフォームでスタジアムを埋める者たちは、いつも得られるわけではない勝利を越えたところにある別の誇りを感じて生きている。彼らにとってガクは、加入からわずか2ヶ月で、愛される戦士の一人となった。小柄で控えめで脆さも感じさせるが、大きな才能と適応力と、ファンに好かれる部分を持った選手だ。