補強禁止処分で新戦力は実質ゼロ。1月にビトロ加入は決まっているが…
今夏の移籍市場でほとんど動きをみせることのなかったアトレティコ・マドリーは、良くも悪くも国際サッカー連盟(FIFA)による補強禁止処分の影響を大きく受けた。
昨年の夏、FIFAが定める未成年者の国際移籍に関する規定に違反したとして、アトレティコは2度の移籍市場において補強禁止処分を下されていた。今年1月にはやむなく1度目の処分を受けたものの、より戦力を拡大できる今夏の移籍市場での処分には納得いかず、クラブはスポーツ裁判所(CAS)に上訴して処分の撤回を求めた。
しかし、最終的に申し立ては認められず。アトレティコは昨季無冠で終わったメンバーに新たな戦力を加えることができなくなり、一時困難な状況に陥った。
一方、CASによる判決が下される前、チームの重要人物2人の去就が注目を集めていた。アトレティコ躍進の立役者であるディエゴ・シメオネ監督や、エースFWアントワーヌ・グリーズマンに移籍の噂がささやかれていたのだ。後者に関しては、マンチェスター・ユナイテッドへの移籍にかなり近づいて、個人合意の報道もなされていたほどであった。
しかしながら、選手の獲得ができず苦境に立たされたクラブを、エースが見捨てることはなかった。今夏は移籍のタイミングではないと考えたグリーズマンは残留を公言。その後アトレティコとの契約も2022年まで延長し、クラブへの忠誠を誓ったのである。
さらにその後、シメオネ監督も2020年までのクラブとの契約延長にサインした。FIFAによる補強禁止処分で新たな戦力を迎え入れることはできなかった一方で、アトレティコはクラブの柱となる2人の引き留めに成功した。
そこで息を吹き返したアトレティコは、シメオネ監督のお気に入りでもあったセビージャのスペイン代表MFビトロとの契約を勝ち取った。先述の通りこの夏は新たな選手を登録できないため、アトレティコは同選手を故郷のラス・パルマスに12月までの期限付きで移籍させ、処分が解ける1月に改めて合流させる計画だ。
補強禁止処分により苦しい状況に立たされていたアトレティコだったが、結果的にグリーズマンとシメオネ監督の慰留に成功した上、念願のビトロの獲得も果たすなど、意外にもポジティブな要素がが見られる。
しかし、忘れてはならないのが、新たな選手を補強できていないためほとんど戦力値が上がっていないこと。得点力不足のFW陣にはセビージャからルシアーノ・ビエットが復帰したものの、もともと獲得が望まれていたケビン・ガメイロやフェルナンド・トーレスの地位を脅かすだけの実力を備えたトップレベルのストライカーではないのが悔やまれる。かねてより噂にのぼっていたジエゴ・コスタの3年ぶりの復帰が決まったとしても、かつてのエースがチームを救えるのはビトロと同じく来年1月以降になる。
チームの新陳代謝が進まなかったことにより、オフェンスの構成力の低さは明らか。最終ラインからのビルドアップの課題は残ったままで、フィニッシュまで持ち込む過程もパターンが少なく、得点力不足に拍車をかけている。開幕から3試合で1勝2分と勝ちきれていないことからも補強禁止処分の影響が見て取れる。
それでも、グリーズマンだけに限らず、ほとんどの選手がクラブの置かれた状況を考え残留したのはプラス要素と捉えられる。夏の補強を経て戦力アップを果たした他クラブに後れを取らないためにも、自慢の団結力がこれからの行方を占う上でキーポイントとなりそうだ。