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メッシのミニマリズム。最小限の技で最大限の効果、現代最高の選手が知るサッカーの原理【西部の目】

シリーズ:西部の目 text by 西部謙司 photo by Getty Images

サッカーのDNA。メッシが天才たる所以

ユベントス戦ではスアレスとのワンツーからシュートを放ったメッシ
ユベントス戦ではスアレスとのワンツーからシュートを放ったメッシ【写真:Getty Images】

「雨上がりのサーベドラ公園に現れた8歳のディエゴは、ボールリフティングしながらGKの頭越しにゴールを決めた」

 マラドーナがプレーした少年チーム、ロス・セボジータス(玉葱の意味)のコーチだったフランシス・コルネーホは、初めて見た8歳にしてすでに我々の知るマラドーナだったと証言している。

 メッシの少年時代の映像も現在のメッシそのものだ。小さくてユニフォームはブカブカで、ボールの大きさが膝ぐらい。それでも少年がメッシであることはすぐにわかる。右へ肩を落として左足のアウトでカットイン、相手の体重移動を見極めて切り返し、どんどん進んでゴール、誰も止められない。

 体の大きさやスピードはもちろん違っているけれども、やっていることはほとんど同じ。子供のときのスーパースターもやがて普通の大人になるものだが、マラドーナやメッシはそのまんま世界の頂点まで行ってしまった天才である。

 メッシが天才なのは、雷光の反射神経と図抜けたボール親和力だけではない。ボールと人体の原理を本能的に知っていたことだ。

 ユベントス戦の1点目、ルイス・スアレスとの壁パスから決めたゴールは実にシンプルだった。守備戦術のオーソリティーであるイタリア、その名門ユベントスが、ただのワンツーで破壊される。ただのワンツーは言い過ぎかもしれないが、凄く正確で速く巧みであることを除けば、小学生でもやるパス交換であり、おそらくサッカーが始まったときからあった崩し方だろう。

 戦術を複雑化させるのが好きな人がいる。いろいろな用語が生み出される。守備は100年間でどれだけ進歩し洗練されただろうか。でも、単純なワンツーでユベントスは崩された。ボールと人体が同じである以上、それで崩せるのだ。

 頭の中で装飾されて肥大化しているだけで、現代サッカー理論の最高峰もワンツー1つで崩されるものにすぎない。なぜかメッシは子供のときからそれを知っていた。なぜかサッカーの原理がDNAに入っていた。身体能力やもろもろを除けば、子供のメッシはユベントス守備陣を突破できる。

 バルセロナでテストを受けていたメッシ少年を見に来た、当時強化部長だったチャーリー・レシャックはキックオフに少し遅れた。そしてベンチにたどり着くまでのグラウンド4分の3周の間に契約を決めたそうだ。議論の余地がなかった。メッシはサッカーそのものに思えたからだ。

(文:西部謙司)

【了】

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