「正直、(中村)憲剛さんがいるほうが嫌でしたね」
フォーメーションが後半の途中から変更されていたことを、浦和レッズのDF槙野智章は知らなかった。正確に言えば、ベンチの首脳陣やピッチ上のチームメイトたちから知らされていなかった。
「試合が終わってから知りました。そのへんは伝達をしっかりやってくれと言いましたけど。僕、左サイドで(ベンチの)一番近くにいたのに、教えてくれなかったので」
ミラクルな大逆転勝利の余韻が、色濃く残っていた試合後の取材エリア。思わず苦笑いを浮かべた槙野だったが、たとえ伝達されていたとしても、やるべき仕事は変わらなかっただろう。
DFマウリシオに代わってFWズラタンが投入されたのが、1‐1で迎えた後半18分。レッズはそれまでの「4‐1‐4‐1」から、フォーメーションを「3‐5‐2」にスイッチしている。
槙野のポジションは左サイドバックから左ストッパーに変わった。マイボールになるとアンカーの青木拓矢が最終ラインに下がって4バック気味になる、お馴染みの可変システムで高い位置を取り続けた。
右サイドバックから右ストッパーに変わった森脇良太も然り。必然的に2人の後方には大きなスペースが生まれるが、それでもリスクを冒せるだけの状況が長く続いていた。槙野が続ける。
「正直、(中村)憲剛さんがいるほうが嫌でしたね。ボールを拾われたときに憲剛さんと大島(僚太)選手にわたってしまうと、そこでタメを作られてしまう。その意味では僕たちもなかなか上がるチャンスがなかっただろうけど、あの2人がいないことで思い切りよくゴールに向かうプレーが数多くできたと思う」
川崎フロンターレの大黒柱、MF中村がピッチを後にした前半42分。埼玉スタジアムで13日夜に行われた、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)準々決勝第2戦のターニングポイントが訪れた。
左サイドバック・車屋紳太郎の一発退場で10人になっていたフロンターレは、ボランチの大島を一時的に左サイドバックに下げた後に、中村に代えてMF田坂祐介を車屋の位置に投入していた。
「一人減ってしまったので、運動量が必要になるだろうということで代えました」
これまでの公式戦でも、後半途中には決まって36歳の中村をベンチに下げていた鬼木達監督は試合後にこう説明した。一発退場という緊急事態を受けてそのパターンを早めたが、結果として中村から繰り出されるカウンターというリスクが消滅した。右足首を痛めていた大島も、後半20分にベンチへ下げざるをえなくなった。