リオ五輪の経験、ブラジル代表の衝撃。明確になった「ロシア」という目標
かつては高い壁として跳ね返されてきた新旧代表によるボランチ陣だが、パスさばきの達人・遠藤と球際の鬼・今野、そして危険地帯の察知に長けた明神は若き逸材にとって文字通りの「生きた教科書だった」。
「ガンバにはいいお手本がいますからね」と偉大な先輩たちのストロングポイントを参考にしつつ、自身のスタイルを確立してきた井手口。長谷川監督は「私は何もしてない」と謙遜するものの、井手口自身は「今のプレースタイルは長谷川監督からずっと要求されてきたことでできた。監督が言い続けてくれなければ、このスタイルはなかったと思う。ユース時代は攻撃ばかりでそれほど守備はしてなかったから」と感謝を忘れない。
最高の土壌に蒔かれた最高の「種」にとって幸いだったのは国際舞台での刺激が「肥やし」になったことだ。
かつて清水エスパルス時代に岡崎慎司の成長を見守った長谷川監督は「いいタイミングで五輪とか国際舞台が巡ってきた」と4年に一度しかない巡りあわせが幸いしたと話すが、井手口が世界を明確に意識したのは、やはり昨夏のリオデジャネイロ五輪がきっかけだった。
もっとも井手口にとって最大の衝撃だったのは本大会ではなく、大会直前に対戦したブラジル五輪代表だという。
「ブラジルなんかは当たるだけじゃボールが取れなかった。ああいう世界トップクラスのレベルと試合ができたのは非常に良かったです」
取材嫌いを自認する若者がキラキラと目を輝かせて、ネイマールらとの邂逅を振り返ったが、口下手なはずの井手口は同時に、こんな決意も定めていた。
「五輪では結果が出せなかった。次は本当にA代表に入ってロシアのW杯に選ばれるようにしっかりとここから頑張っていきたい」
まだ荒削りな部分は残しているものの、国際舞台でも通用しうるインテンシティの高さと時折見せるパンチの効いたシュートを併せ持つ21歳の可能性は無限大。歴代最多のAマッチ出場を誇る偉大な先輩は、オーストラリア戦の翌日に、こう言い切った。
「陽介はしっかりとボールを刈り取れるし、なおかつ攻撃にも参加できる。今の(ハリルホジッチ)監督の戦術にマッチしているし、これからさらに代表の経験で成長するだろうし、先が楽しみ」
遠藤と今野、そして明神らの良さを掛け合わせたハイブリッドな逸材は、ロシアで大輪を咲かせるだけの力を持っている。
(取材・文:下薗昌記)
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