オーストラリア戦の先発が「順当」だった理由
ロシアW杯アジア最終予選のオーストラリア戦に2-0と快勝した日本代表の中でも特に乾貴士の攻守に渡る存在感の大きさは際立っていた。日本国内ではいまだに「ドリブラー」というイメージが強く、オン・ザ・ボール(ボールを持った)時のプレーに特長があるとされている乾だが、3シーズン目を向かえるスペインで培ってきたのが何より緻密な守備戦術だ。
戦前の先発予想において乾と浅野拓磨のウイング起用は「大博打」と表現されていることもあったが、エイバルとシュトゥットガルトにおける直近の試合での彼らの前線でのパフォーマンスを見た時には極めて「順当」な起用であった。
例えば、8月21日のラ・リーガ開幕節で乾のエイバルはマラガと対戦している。マラガのシステムはオーストラリアと同じ3-4-2-1で、エイバルは日本代表と異なり4-4-2ではあったが相手3バックの右CB対して乾がプレスに行くことでエイバルは前線での“ハマり”を作るお得意のハイプレスを仕掛け、結果的には敵地で勝ち点3を持ち帰る勝利(0-1)を収めている。
ハリルホジッチ監督でなくとも、マラガ戦での乾のパフォーマンスを見ればオーストラリアの3バックに対するプレッシングで大いに貢献できることは明らかで先発起用の決め手となったのは乾の攻撃面への期待よりも、「計算できる守備」だったはず。それでは、オーストラリア戦での乾が具体的にどのような守備をしていたのかを見ていきたい。
3-4-2-1のシステムを用い、自陣からビルドアップでボールを前進させるプレーモデルを貫くオーストラリアに対して、日本代表はアンカーを置いた4-3-3のシステムでオーストラリアの3バックとダブルボランチに対して前線3トップと井手口陽介、山口蛍のインサイドハーフがマンマーク気味に圧力をかけていった。
乾は基本的には右CBのミリガンをつかまえるポジションを取り、ミリガンがボールを持った時には素早いアプローチで距離を詰める守備をファーストオプションとして行っていた。
実際、立ち上がり3分までに左サイドでのハイプレスから2度、昌子源が敵陣でパスをカットして日本ボールにしている。
ただし、開始5分でハイプレスの強度を下げ中盤でセットする守備を整えた直後の6分にオーストラリアにDFラインから前線のファーストラインと井手口、山口のセカンドラインを一気に突破される縦パスを刺された。
それにより、井手口と山口が両脇のスペースを使おうと動くオーストラリアの2シャドーに注意を傾け、自らのマーカーであるダブルボランチを簡単にリリースするようになったことで、特に乾と浅野のウイングは一人で複数名をつかまえる「中間ポジション」を取る必要が出てきた。