歓喜呼んだ指揮官の綿密な準備。2ヶ月の成果がピッチに現出
そして原口の粘り強いつなぎから井手口の鮮やかなミドルシュートが決まり、2-0になるとオーストラリアは中盤を展開力のあるジャクソン・アーバインから推進力のあるムスタファ・アミニに代えて最後の猛攻を仕掛けようとした。だが、ここでもハリルホジッチ監督は守備の枚数を増やしたり、後ろのディフェンスを強化したりする代わりに、岡崎慎司と久保裕也を立て続けに入れて前線のプレスとカウンターを強化した。
興味深いのが後半にピッチサイドで入念にウォーミングアップをしていた選手の顔ぶれだ。結果的に投入された3人に加え、柴崎岳、香川真司、そして途中から酒井高徳が加わる形で行われていた。おそらく柴崎と香川はオーストラリアに追いつかれた場合の攻撃オプション、酒井高徳は守備陣のどこかに動きの低下やアクシデントがあった場合を考えた準備だろう。いずれにしても非常に前向きなプランがこれらの準備にも見てとれた。
西野朗技術委員長も「選手交代のタイミングが完璧だった」と感嘆する采配はブラジルW杯でアルジェリア代表をベスト16に導き、世界王者となるドイツを最後まで苦しめたハリルホジッチ監督の“勝負師”ぶりが発揮されたものだが、それは「(オーストラリアを)2ヶ月前から分析している。ロシアに行ってコンフェデも観てきた」指揮官の周到なプランを、コンディションの見極めも含め、現在の“ベストメンバー”で実現した形と言える。
個々のミスはあったし、前半はポストに救われるシーンもあったが、最終的に相手のシュートを6本に抑え、18本のシュートを記録したというデータはどちらがゲームの主導権を取っていたかを明確に示している。日本が8本のCK、11本の直接FKを蹴ったのに対し、オーストラリアが3本のCK、5本の直接FKに終わっているのもロジカルな結果と言える。
ただ、少々の誤解が広まっている部分もあるように思うが、ハリルホジッチ監督がこういう戦い方を理想のスタイルとして描いていると言えばそうではない。ここまで積み上げたスタンダードをベースにオーストラリアという相手に対してベストと考えられる戦い方をしたのであり、勝利のために必要なら別の選択、選手起用をしていたのではないか。
今回のオーストラリア対策はここまでの積み上げをダイレクトに表現しやすいシチュエーションで、それを経験豊富な指揮官が恐れることなく実行し、成功に導いたということだ。ここから最終予選のラストゲームであるサウジアラビア戦にどういうメンバーで臨み、そこから本大会に向けてどういう強化をしていくのかワクワクしたいところだ。ここまで継続的に2年半を追いかけてきた記者の1人としても、何とか“ハリルジャパンの冒険”がW杯本大会まで継続されることを願っている。
(取材・文:河治良幸)
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