暴動が起きたホームのUAE戦。カズが絶不調に陥った知られざる理由
実際、この時点で日本は勝ち点6の3位。1位・韓国は同13、2位・UAEも7を稼いでいて、自力2位もなくなっていた。日本の試合がなかった10月18日にUAEがカザフスタンに勝っていれば、絶望的な状況になるはずだったのだが、UAEはカザフスタンに0-3でまさかの敗戦。10月26日のUAEとの直接対決に勝てば2位再浮上というかすかな希望が見えてきた。
それだけに、東京・国立でのUAE戦は極めて重要だった。チーム全体がその重要性を強く認識して挑み、開始3分には呂比須が豪快なシュートで先制。が、前半のうちに同点に追いつかれ、そのまま突き放せない。
特にエース・カズの不調は深刻だった。実は9月の韓国戦で崔英一に徹底マークを受け、尾てい骨骨折のアクシデントに見舞われていたのだが、まだ情報が公になっておらず、彼は批判の矢面に立たされ続けた。
結局、このUAE戦は1-1のドロー。試合後、スタジアムから出てきたカズが、正門前に陣取ったサポーターから「お前なんかやめちまえ、腹を切れ」と罵倒され、イスを投げつけられるという前代未聞の事件も起きた。
当時を知らない人にしてみれば、日本代表の戦いに人々がここまで一喜一憂したこと自体、信じられないかもしれない。当時の選手たちが凄まじい重圧を感じながら世界への扉をこじ開けようとした事実を、我々は忘れるべきではないだろう。
3位に沈んだままの日本とは対照的に、韓国はこの時点で1位通過が決定。11月1日のアウェイ・韓国戦(ソウル・蚕室)は彼らにとっては消化試合だった。だが、日本にとっては絶対に勝ち点3を手にしなければならない大一番に変わりはない。1万5000人もの大観衆が敵地に渡り、大声援を送った。
試合はモチベーションの差が明白に出た。切迫感を前面に押し出す日本は開始3分、相馬直樹(町田監督)のクロスから名波が先制。後半37分には再び左の相馬の折り返しを呂比須がゴール。2-0とリードを広げた。
後半に入ると韓国ペースになり、金度勲に度重なる決定機を作られる。そこで41歳だった青年監督・岡田は一歩も引かず、北澤豪(解説者)に代えて平野孝(解説者)を起用。「下がって守りたいのを我慢して前へ前へという意識を持たせるようにした」と加茂監督とは正反対の采配を見せた。これで日本は2ヶ月ぶりの勝利。ソウルで13年ぶりの白星を挙げ、やっと長く険しいトンネルを抜け出した。