上手さに泥臭さを融合しつつあるフロンターレの中心で
前線の4人に大島やネット、両サイドバックも加わる多彩な攻撃は、FW大久保嘉人(現FC東京)が抜けた穴を心配させるどころか、阿部と家長の個性がもたらす相乗効果でより破壊力を増している感がある。
そこへ鬼木監督が就任時から求める「攻守の切り替えの速さ」と「球際における激しさ」が加わる。後者に関しては、中村に代わって後半25分から投入されたDF登里享平が身をもって示した。
レッズに1点を返された4分後の後半35分。カウンターからFW武藤雄樹が抜け出しかけた、あわや同点のピンチで誰よりも早く体を寄せて、食い止めたのが登里だった。
激しい接触プレーで左ひざを痛めたのか。3分後にMF田坂祐介との交代を余儀なくされた。けがが軽症であることを祈りながらも、中村は登里の闘志を称賛せずにはいられなかった。
「ピンチをしっかり止められるというか、体を張って、たとえファウルでもいいから止めるという姿勢がいま、チームのなかに浸透している。ノボリ(登里)はいい選手だし、チームとしても痛いけど、これで代わりの選手がまた出てくると思うし、とにかく総力戦なので、みんなで戦っていくしかないので」
序盤戦は最大で12人を数える離脱者が出た時期もあった。苦しい時期をやりくりして戦ってきたからこそ一人ひとりの能力が上がり、万全な選手が多くなったいま現在に相乗効果を与えている。
その結果としてJ1では首位のアントラーズに勝ち点4差の3位にピタリとつけ、ACLでは2009シーズンのベスト8を上回る、クラブ史上初のベスト4進出へ大手をかけた。
もっとも、8年前を知る選手は中村と登里、田坂、あとはDF井川祐輔の4人しかいない。まったく新しいチームだからこそ、歴史のすべてを知る15年目のバンディエラ・中村は「いままでとは違ったフロンターレを見せられるのかな」と語ったことがある。
「ただ、まだ半分が終わっただけですからね。まだ何も決まっていないし、向こうのホームで試合もあるわけだから。そのときになったら話せることもあるかもしれないですけど、次がいつなのかもわからないし、その間にルヴァンカップも含めてたくさん試合もあるので。みんなでひとつずつ頑張ります」
現状への手応えがある一方で、家長らを触媒にしてさらなる化学反応を起こす余地を含めて、伸びしろもまだまだ残されていると感じているからだろう。
新たな歴史の扉を開ける権利を得た豊穣の秋へ。上手さに泥臭さを融合しつつあるフロンターレの中心で変わらぬ輝きを放つ中村の言葉は、苦難を知る分だけ含蓄に富んでいた。
(取材・文:藤江直人)
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