昨シーズンまでとは異なる強さを身につけている3つの理由
ファンやサポーターに「もっと熱く」と訴えるかのように、両腕を下から上へ激しく振りあげた。それも一度、二度、三度と。そのとき、川崎フロンターレの大黒柱、36歳のMF中村憲剛は吠えていた。
後半7分すぎに右タッチライン際で繰り広げられていた攻防。フロンターレのパスがわずかに流れ、カバーリングに入った浦和レッズのDFマウリシオが前方のMF矢島慎也へパスを出したときだった。
猛然とプレスバックしてきた中村が、矢島が切り返した瞬間に狙いを定めてボールを刈り取りにいく。レッズボールのスローインになった直後に、おもむろにバックスタンドを煽って一体感をさらに高めた。
日本勢同士の激突となった23日のACL準々決勝第1戦。フロンターレが3‐1の快勝劇で先勝し、初のベスト4進出へ王手をかけた90分間に、クラブに新たな歴史が刻まれつつある理由が凝縮されていた。
「ここ2ヶ月くらいで自分たちも整理されてきて、オニさん(鬼木達監督)のやりたいサッカーを体現できるようになってきている。ボールをもったときには人もボールもどんどん出ていって握り倒すところと、取られた瞬間に切り替えるところ、あとは球際のところで激しく戦うところもそうですよね。
これらができないと試合に出られないし、トレーニングの段階からみんなが口を酸っぱくして言いながらやっている。そうした積み上げと選手たちの意識の高さ、そして厳しい競争があるなかで対戦相手のことよりも、自分たちをどれだけ高められるかということを突き詰めて毎日やっているので」
充実感を漂わせる中村があげた、昨シーズンまでとは異なる強さを身につけている理由は3つ。冒頭で紹介したシーンは、2つ目の「攻守の切り替えの速さ」を大ベテラン自らが率先して実践していた。
そして、前半33分に決まったキャプテンのFW小林悠の先制点は、1つ目の「ボールをもったときには人もボールもどんどん出ていって握り倒す」が、ほぼ完ぺきなかたちで展開されたすえに生まれていた。
左サイドのハーフウェイライン付近でボールをもったMF駒井善成をDF谷口彰悟、MF大島僚太、MF阿部浩之の3人で取り囲む。たまらずこぼれたボールを、MFエドゥアルド・ネットが拾った。
そこから約30秒間に15本ものショートパスを、左サイドでポンポンとテンポよくつなぐ。プレーに関わった選手はネットを起点に大島、中村、阿部、MF家長昭博、DF車屋紳太郎と6人を数えた。