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コウチーニョ騒動が象徴する現代移籍市場のいびつな構造。過剰なインフレ、狂ったパワーバランス

今年の夏はネイマールのパリ・サンジェルマン移籍がサッカー界を席巻した。1人の移籍で動いた金額は驚愕の290億円。毎年のように選手の移籍金は高騰を続けおり、過剰ともいえるインフレ状態は、パワーバランスの崩壊を招く。バルセロナ行きが噂されるリバプールの10番、フィリッペ・コウチーニョの動きは移籍市場の変化といびつな構造を象徴しているようだ。(取材・文:Kozo Matsuzawa / 松澤浩三【イングランド】)

text by Kozo Matsuzawa / 松澤浩三 photo by Getty Images

バルセロナ移籍は大きなチャンスだが…

コウチーニョ
コウチーニョにバルセロナが触手を伸ばす。果たしてリバプールを離れることになるか、それとも…【写真:Getty Images】

 インテルミラノ時代の2010年。チャンピオンズリーグ(CL)のトットナム戦でプレーする当時18歳のコウチーニョを見た際に、「インテルには若くていい選手がいるもんだな」と軽いショックを受けたことを今でも覚えている。それまで名前も聞いたことのなかった選手だっただけに、よりインパクトが強かった。特にその視野の広さとパスセンス、ドリブルのうまさが印象的で、将来性の豊かさを感じさせていた。

 だがその後はまるで頭角を現すことなく、少し残念に感じていた。そんな中、2013年1月、冬の市場でリバプールに移籍することが決定。まだ20歳で特大のポテンシャルを持つ選手を850万ポンド(約12億円)という破格で獲得したリバプールは、最高の買い物をした。とはいえ、実際にはこの時点でコウチーニョはイングランドで無名の存在だっただけに、別段大きく取り上げられることもなかったのだが……。

 そしてあれから4年半が経過。25歳になったコウチーニョはチームの大黒柱に成長、ファンの一番人気の選手となった。昨季途中の1月には週給15万ポンド(約2100万円)で2022年まで契約を更新し、記者会見では「この契約は、僕がリバプールで幸せを感じている証明だ」と公言。さらにこう続けた。

「契約を延長できて非常に光栄だ。すべてのクラブ関係者、サポーターたちは、右も左もわからなかった僕のことを大歓迎してくれた。ユルゲン(・クロップ)も素晴らしい監督で、彼は勝者でもある。クラブにはとても感謝しているし、この街を我が家だと感じ、僕らもその一部になっていると認識している」

 しかしそのわずか7ヶ月後、バルセロナがコウチーニョ獲得を打診する。ネイマールが2億ポンド(約290億円)でパリ・サンジェルマンへと移籍し、その代役の1人としてこのブラジル代表に目をつけたというわけだ。だがリバプールは7200万ポンド(約101億円)、さらに2度目の9000万ポンド(約126億円)のオファーも跳ね返す。そして今月11日。渦中の本人は、トランスファーリクエストを提出して移籍したい気持ちをクラブ側に正式に言い渡した。

 現在のサッカー界で、誰もがプレーしたい考えるがクラブが2つだけ存在する。言うまでもないが、それは当然レアル・マドリーとバルセロナだ。このスペインの2強から声をかけられる、それは選手にしてみれば、もしかしたら二度とないかもしれない千載一遇のチャンスといっていいだろう。

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