「一人で勝ち点10を持っている」(名波浩監督)
起死回生の同点ゴールが決まると、中村俊輔は沸き上がる感情を右の拳に込め、思い切り振り下ろした。
明治安田生命J1リーグ第23節、ジュビロ磐田はホームにセレッソ大阪を迎えている。1点のビハインドを背負いながら試合終盤の86分、川又堅碁のヘディング弾で引き分けに持ち込んだ。勝つことはできなかったが、負けなかった。両者はリーグ開幕戦でも勝ち点1を分け合った。たとえ結果は同じでも、得たものの価値の大きさは比べるまでもない。
磐田加入以来、天才レフティーは多くのものをチームにもたらしている。勝利を呼び込み、この試合のように窮地を救い、周囲の成長を助けるなど、あらゆるシーンで存在感を発揮する。
「一人で勝ち点10を持っている」
名波浩監督は、背番号10をこのように評する。今シーズンの磐田の戦いぶりとエースのパフォーマンスを照らし合わせれば、指揮官の言葉にも納得がいく。
C大阪戦でも勝ち点1獲得に貢献した。ショートコーナーからリターンを受けると柔らかいクロスを送り、川又の今シーズン9得点目をお膳立て。「あれを首で持っていけるのはなかなか日本人ではいないので、彼の良さが出たと思う」と中村俊輔はたたえる。川又は後ろに下がりながらのヘッドを沈めたが、このストライカーの身体能力が如実に表れていた。
『ここに走り込んで飛べばチャンスになる』というところに合わせるキックは、常にゴールの予感を漂わせる。黒星を覚悟せざるを得ない今回のホームゲームでも、中村俊輔の左足はごく自然に輝いた。