カメラの前で流した涙の意味。目指すは「最高の景色」
ベンチでうずくまり動けなくなってしまった。この後チームメイトに励まされ、なんとか立ち上がる【写真:舩木渉】
試合後にサポーターへのあいさつを終えた猶本は、ベンチの中でうずくまって動けなくなってしまった。チームメイトに励まされてなんとか立ち上がったが、目には涙が浮かび、表彰式のため整列している最中もうつむき、悔しさをあらわにしていた。
猶本光は表彰式のため整列している最中もうつむき、悔しさをあらわにしていた【写真:舩木渉】
ユニフォームからの着替えなども済ませて取材エリアに現れた猶本は、いつも通りテレビ局のインタビューに淡々と答えているように見えた。しかし、始まって1分半ほど経ったところでインタビュアーが「カップ戦が終わったが、大会全体を通してチームとして得たことはありましたか?」という質問をしたところで表情が変わった。
「みんなでつかんだ決勝の舞台だったので…」と話したところで言葉に詰まり、顔を覆って大粒の涙を流す。テレビカメラの前で時間にして1分ほど涙が止まらず、やっと落ち着いたところで「決勝に出られたというのはチームとしての成長だと思うけど、優勝できなかったというのは、まだまだ足りない部分がある。全然満足できないです」と悔しさが口を衝いて出た。
「本当に最後の最後、踏ん張れなかっただとか、思うことはあるんですけど、応援してくれている人がいるので、自分たちはもっともっと上を目指して、また上手くなって、もっといいプレーを披露したいと思います」
猶本光という選手は、悔しさをバネに成長してきた。時に涙を流すこともあれど、それは未来の飛躍のための助走にすぎない。今回のなでしこリーグカップ決勝での敗戦もエネルギーに変換され、次の一歩への糧となる。
悔しさの先では常に前を向く。次の涙は「最高の景色」のあとで…【写真:舩木渉】
試合から一夜明け、猶本は自身のツイッターを更新して感謝と決意を述べた。
「カップ戦決勝。たくさんの応援に感謝します。あるサポーターの方がこんな手紙をくれました。『悔しい結果だったけど、退屈な予定だった盆休み、夢をみさせてくれてありがとう』応援って、どんな壁にも立ち向かうパワーになる。もっともっと上手くなりたい。最高の景色を一緒に見たい。です」
今週末からなでしこリーグの後半戦が再開する。浦和Lは首位の日テレ・ベレーザと勝ち点7差の5位につけている。残り8試合で厳しいとの見方もあるが、優勝の可能性は確実に残されている。猶本はカップ戦決勝の敗戦を糧に、応援のパワーを得て「最高の景色」を目指して走り続ける。
夢が持つ力はとてつもなく大きい。人は涙の数だけ強くなる。次に涙を流すのは夢を叶えた時だ。
(取材・文:舩木渉)
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