胸に刻んだ決意と覚悟。誰もが見ていた努力の日々
風間八宏前監督(現名古屋グランパス監督)に率いられた4年半で、独特のスタイルに対する薫陶を受けた選手たちは、フロンターレでいう「フリー」を頭で考えることなく、体が反応するレベルにある。
<パスの受け手が相手選手にマークされていても、パスの出し手との間で『ボールを出せる』という意思が疎通すれば、フロンターレでは『フリー』となる>
こうした考え方を根底に置きながらパスを出して動き、ボールを受けてからまた動く。絶えず数的優位の状況を作り出すことが求められる中で、ちょっとでも躊躇すればチームにフィットしていないと映る。
「僕自身はそこまで感じていないんですけど、やっぱりプロなので。結果も出ていないし、試合にも出ていないんで、そういう目は向けられますけどね」
同じく新加入したMF阿部浩之(前ガンバ大阪)が、瞬く間にチームへフィット。アントラーズ戦の後半開始早々に決めた2点目を含めて、すでにキャリアハイとなる9ゴールを挙げている。
どうしても比較される対象となる状況に、大黒柱のMF中村憲剛は長い目で見てとばかりに、こんな言葉を残した。おりしも公式戦6戦全勝と右肩上がりだった、5月の戦いを終えた時期のことだ。
「まあ徐々に、徐々にね。これからだと思います。アキ(家長)自身のポテンシャルは疑いようがないし、アキがチームにフィットするのを待てる余裕がいまのウチにはあるので。そういうなかで僕はアキの特徴を引き出してあげたいし、周りも特徴を感じてあげられるようになればいいんじゃないかな」
かつては対戦相手として何度も苦渋を味わわされた、フロンターレの魅力的なパスサッカーに憧憬の念を抱き、絶対的な居場所を築きあげていたアルディージャから志願するかたちで新たな挑戦を求めた。
31歳になるシーズンで、あえて選んだ道。家長が胸に刻んだ決意と覚悟は、結果を出せない不完全燃焼の日々が続いても萎えることはなかった。日々の練習に黙々と取り組んできた背中を、誰もが見ていた。