試合後、ゴール裏で感謝の思いを伝えた数分間
精いっぱいの強がりだった。敵地・山梨中銀スタジアムを赤く染めたゴール裏へ一人で向かい、感謝の思いと旅立ちの決意を自らの言葉で伝えた数分間。関根貴大は「泣いていないかな」と苦笑いした。
抱いてきた海外移籍の夢を成就させたなかで迎えた、浦和レッズでの最後の試合。涙はふさわしくない。それでも温かく、必要ならば厳しい声をも送り続けてくれたサポーターを前にすると覚悟がぶれる。
「僕はこのクラブで9年間、とてつもない応援をもらってきました。日本一のサポーターの前で、埼玉スタジアムで走って戦って、本当に自分にとって大きな財産になりました。自分でこのチームを勝たせる男にはなれなかったけど、またこのクラブで成長した姿を見せられるように頑張ります」
拡声器を通して届けた声が、わずかながら途中で途切れる。ちょっぴり詰まっていた。胸中にとめどもなく込みあげてきた万感の思いが涙腺を緩めたことを、最後は照れ笑いを浮かべながら認めた。
「泣いていました……かね」
ブンデスリーガ2部のインゴルシュタットへの完全移籍が合意した、とレッズから電撃的に発表されたのは6日。現地時間11日に行われるメディカルチェックを経て、正式契約を結ぶ運びとなった。
それでも、9日に行われたヴァンフォーレ甲府とのJ1第21節で、先発メンバーに名前を連ねた。主戦場としてきた右アウトサイドで、後半38分にMF駒井善成と交代するまで全身全霊でプレーした。
後半15分には後方からのロングボールを敵陣深くまで追い、対面のMF阿部翔平と激突。もんどりを打って倒れたプレーが危険と見なされ、木村博之主審からイエローカードを提示されてしまう。
だからといって、闘志を前面に押し出したプレーは変わらない。すべては愛してやまないレッズの勝利のために。「最後に退場したら、とんでもないと思った」と笑いながら、偽らざる思いも明かしている。
「最後という実感はないんですけど、後半になると『もう終わっちゃうんだな』って思いながらプレーしていた」