不可欠な選手はいつも縁の下の力持ち
ペレス会長の第一次政権時代に「ジダネス・イ・パボネス」というポリシーがあった。高額スターのジダンたちと、生え抜きの若手(パボン)たちを組み合わせるという意味だが、戦略というより経営方針といっていいだろう。実力も市場価値も相当な差がある選手が同居する究極の格差社会だった。長続きするわけがない。
ジダネスの代表だったジダン監督が率いる現在のレアルは、すべてのポジションがジダネスになっている。とはいえ攻撃偏重の構成に変わりはなく、つまりカギを握るのは中盤の底に位置するカゼミーロである。
これはジダンが現役だったときのマケレレが攻守のバランスをぎりぎりで保っていたのと同じだ。BBCを並べるにしろ、1人削って2トップ+イスコでもそれは変わらない。レアルで最も重要な選手はカゼミーロであり、いまのところ代案もなく代役もいない。攻撃のスターを並べるかぎり、このクラブで不可欠な選手はいつも縁の下の力持ちということになる。
攻撃のエンジンはモドリッチとクロースだ。この2人を経由すれば敵の厳しいプレスにもボールを失わず、有効な攻撃へつなげていける。2人のプレーメーカーをカルバハルとマルセロの両サイドバックが援護する。
FWが強力なレアルはもともとカウンターアタックをやらせれば世界一の破壊力があったが、中盤の構成力が上がったことで遅攻でも問題なく点がとれている。さらにカゼミーロの定着で守備も安定。堅守速攻もポゼッション&プレスもできる、どうなっても強力なチームが出来上がった。
ジダン監督はスター選手を気持ち良くプレーさせる、このクラブに適したタイプのボスだが、物わかりがいいだけの男ではない。2006年ワールドカップ決勝が典型だが、怒れば世紀のちゃぶ台返しも平気である。CL15-16のファイナルでは、堅守速攻のアトレティコ・マドリーにボールを持たせるという、かなりえげつない戦い方を仕掛けていた。
ライバルのバルセロナはレアルと似たチームだが、あんなことはできないと思う。いざとなれば勝つことがすべて。何だかんだいっても、その一点でまとまれる。“白い巨人”に受け継がれてきた遺伝子なのかもしれない。
(文:西部謙司)
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