仮にJ1を制しても「使命を果たしたとは言えない」
「子どもたちが喜ぶこと、県民の夢をつぶしてはいけない。われわれにできることであれば、やらなければいけないと」
「人生って、時期によっていろいろな生き方があるじゃないですか。70の人生。80の人生がある。県民の夢をつなぐミッションに意義を見出したから、手伝ってみようかと思い立ったわけです」
「J1昇格が第1段階。次にJ1定着。人は、目標を掲げることによりモチベーションを上げていきますので、より上を目指していくのは当たり前です。しかし、仮にJ1を制するクラブになったとして、それだけでは使命を果たしたとは言えません。
強豪クラブになるのは手段であって、目標ではないんですよ。真の目標は、長崎を元気に、子どもが夢を持って生きられるように、社会に貢献すること。その思いがあるからこそ、苦しいときもがんばれる」
髙田社長の話には体裁の整ったよそいきの言葉が多分に含まれていると僕は感じたが、それは虚飾とは違い、偽りのない気持ちだったのではないかと思える。
ジャパネットたかたは平戸市の小さなカメラ屋を起源とし、およそ30年前、髙田氏が独立して佐世保市に店を構えたことから始まる。ラジオ、テレビ、インターネットとメディアの多展開を進め、やがて国内有数の通信販売企業へと成長した。
往時、地元の若い経営者が集まり、これからの佐世保をどうするか、長崎をどうするか、喧々諤々、語り明かした夜があったのだろう。そこにはイノベーション、ウィンウィンといった薄っぺらい経済用語はなく、生身のぶつかり合いだったはずだ。
ひっそりと静まりかえった『山本コーヒー』はそこだけ時間が止まったようで、初めての場所なのにふと懐かしさを覚えた。きっと、若かりし日の髙田氏も、佐世保の街のどこかで仕事の合間にコーヒーを飲み、ひと息ついていたのだろうと想像する。
そろそろ空港に向かう時間だ。僕は「また佐世保に来たら寄らせてもらいます。コーヒーと煙草がセットという人間にはありがたいお店です」と言い、「最近はどうも世知辛くていけないね。昔ながらの店はだんだん減ってきているけど、うちは息子が跡を継ぐことになっています」と話す店主はちょっぴり誇らしげであった。
地元の危機に際して立ち上がり、新たな事業に乗り出す経営者がいれば、その土地にしっかり根を生やし火を灯しつづける経営者もいる。それは優劣ではなく、生き方の違いだ。
長崎県を代表する企業のひとつである、ジャパネットたかたのバックには、直接的、間接的に数多くの企業がついている。経営が次世代へと受け継がれようとしていくなか、若き髙田明を知る人たちがいる。それがV・ファーレン長崎新経営陣の最大の強みと言えまいか。
(取材・文:海江田哲朗)
【了】
インタビュー全文は『フットボール批評issue17』でお楽しみください。