「昔、ライオンズクラブでご一緒したことがありますよ」
地方取材のときは、その土地の喫茶店に行くのをささやかな楽しみとしている。
コーヒーチェーンが幅を利かせ、コンビニで挽きたてコーヒーが100円で買える時代だ。前時代的な個人経営の喫茶店は減少の一途をたどっている。
この場合、カップルがウフフと見つめ合い、きれいに盛りつけられたランチプレートを出すような、こじゃれたカフェには用がない。まして、テーブルの隅に「女子会にいかがですか?」とポップが飾ってある店は論外だ。僕が求めるのは、たとえば学生時代、なんにも予定がなくて時間を持て余す夏の午後、友だちと会って「お茶でもすっか」と出向いた喫茶店だ。
ぶらっと街を歩き、気が向いた店に入る。ほぼ運まかせの都合、当たり、ハズレはある。それがおもしろい。もっとも評価の基準はあいまいだ。コーヒーの味は重要なポイントと考えられるが、僕は味の違いがよくわからない。口に含み、おいしいと思えればそれでいい。小一時間ほど、煙草を吸ったり、本を読んだりしながら、ぼんやり過ごす。
佐世保市の中心地にある『山本コーヒー』も、そんなふうに立ち寄った喫茶店だった。メニューには名物の佐世保バーガーやレモンステーキがあったが、あいにく食事は済ませていた。カウンターに座り、ホットコーヒーを注文する。最初、床に散らばる落花生の殻に面食らった。アメリカンスタイルだ。佐世保には米軍基地がある。通りを行き交う人々は国際色豊かだ。
コーヒーに添えられた落花生を剥き、ピーナッツを口に放り込んで殻を床に落とす。僕の不慣れな仕草を見てか、「フフッ、気持ちいいでしょ?」と店主が小さく笑った。いい店だなと思った。コーヒーも美味い。
「どちらから? お仕事ですか?」と尋ねられ、来訪の目的をかいつまんで説明した。自分は雑誌の記者だということ。ジャパネットたかたの創業者である髙田明氏がV・ファーレン長崎の社長に就任し、話を訊きに東京から来たのだと。最後に、自分はもともと九州の人間だから里帰りの気分と付け加える。これを言わずにはいられないのはなぜだろう。
店主がグラスを拭きながら言う。
「髙田さんとは、昔、ライオンズクラブでご一緒したことがありますよ。ユニークな方でね。この頃はごぶさたしていますが」
ライオンズクラブは全国各地にあり、社会奉仕活動を目的とする友好団体だ。主に経営者で組織され、希望すれば誰でも入会できるわけではない。簡単に言えば、その地域の名士が集う。
そこで、僕は先ほど終えたばかりの髙田社長のインタビューを思い返していた。