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Jリーグ 7年前

松井大輔らしい移籍の決断。磐田からポーランドへ。誰もが惹きつけられる男の新たな挑戦

text by 青木務 photo by Getty Images

名波監督との知られざる逸話。叩かれた監督室の扉

「就任当初にアイツと2人で話した時、『俺が連れてきた選手じゃないから、お前の“取扱説明書”が俺にはない』と言ったんだ」

 磐田の中心選手として長らくプレーした名波監督にとって、例えば前田、駒野、松浦拓弥といった面々は共に戦った後輩だからよく知っている。しかし、松井とは同じクラブに所属したことがなく、日本代表の選出時期も異なる。そのため、ヨーロッパから戻ってきた男がどのような人物なのか、指揮官はまだ把握しきれていなかった。

 ある日、監督室の扉を松井が叩いた。その時に交わされたやりとりが、今日に至る良好な関係を築くきっかけとなった。

「“取扱説明書”がなくてわからなかったんだけど、あの山形戦の前にアイツが俺の部屋に来て、『僕をスタメンから外してください』と言ってきたんだ。『いやいや、お前は主力だしエースなんだ。なぜならお前の発言、それから動き出しと、そういうスイッチがオンザピッチにもオフザピッチにもあるんだよ』と。そういう話をしてから、腹を割って話せるようになった。飯も何度も一緒に行ったし、そういう中でコイツは腹を割って話せる奴だと思えた」

 J1復帰を目指すチームのために松井がどれだけ心を砕いてきたか、名波監督はしっかりと見ていたのだ。

 結局、プレーオフでの昇格を目指した磐田は準決勝で山形に敗れた。GKにヘディングシュートを決められるというあまりに衝撃的な幕切れだったこともあり、未来が完全に閉ざされたような心境だっただろう。しかし、松井と名波監督の間に生まれた本当の意味での信頼関係がチームを照らす光となり、翌年のJ1復帰、昨シーズンの残留、そして現在の躍進に繋がっていった。

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