周囲には遠回りに映るこれまでの軌跡
味の素スタジアムのゴール裏でウォーミングアップを重ねながら、アルビレックス新潟のルーキー、河田篤秀は心臓の鼓動がどんどん高鳴ってくるのを感じていた。
前半12分にもぎ取った先制点を何とか死守してきたが、後半21分に追いつかれてしまう。リザーブのなかでフォワードは自分だけしかいない。憧れ続けてきた舞台に、初めて立つ瞬間は必ず訪れる――。そう考えただけで、177センチ、74キロのボディにアドレナリンがあふれてくる。
「早く呼ばれないかな、という気持ちでずっとアップしていたので。思っていたよりも緊張はしなかったですね。むしろお客さんが大勢いたので楽しもうというか、やってやるぞ、一発叩き込んでヒーローになってやるぞ、という思いでピッチに入ったんですけど」
FC東京のホームに乗り込んだ7月30日のJ1第19節。今シーズンで初めてベンチに入った河田に、呂比須ワグナー監督から声がかかったのは同点とされてから5分後。伝えられた指示は単純明快だった。
「どんどんシュートを打っていいと。それだけだったので、とにかく相手よりもできるだけ多く走って、自由にやろうと。ただ、今日に関しては正直、全然ダメでしたね」
4分間のアディショナルタイムを含めて、放ったシュート数はゼロに終わった。試合もそのまま1‐1で終了。5月20日の北海道コンサドーレ札幌戦以来、7試合ぶりとなる白星も得られなかった。
それでも、河田自身は確かなる第一歩を刻んだ。25歳になる年でのJ1デビュー。周囲には遠回りに映るこれまでの軌跡はすべて河田自身が決断し、過去を振り向くことなく歩んできたものだった。