ワールドクラスの存在が与える刺激
もっとも、田中のゴールシーンに関して時計の針を巻き戻してみたい。敵陣の中央でボールを受け、タメを作り、左サイドを攻め上がっていた橋本にパスを出したのはポドルスキだった。橋本のクロスこそ相手にクリアされたが、司令塔の役割をもしっかり果たしていたことになる。
「ワールドクラスのフォワードとはああなんだ、というのをホンマに実感しましたし、みなさんも『すごいヤツが来た』と感じたんじゃないですか。僕自身、取ってほしいと期待される場面で2点を取るルーカスにあらためて感心させられたし、これを後半戦へ向けていい刺激にしていかなきゃいけないですね」
サマーブレイク明けの初戦を快勝で飾ったことで、田中が残り15試合での巻き返しへ決意を新たにすれば、橋本はその先導役となる、実力と人格が備わったポドルスキのこれからをまるでファンのような感覚で見つめる。
「言うても、来日してまだ3週間ですからね。ここからよくなっていくしかないと思うので、これからがホンマに楽しみですよ」
DF岩波拓也が負傷で交代したこともあり、過酷な条件のなかを先発フル出場したポドルスキは勝利を告げるホイッスルが鳴り響いた直後に、ピッチ上にいた仲間たち全員と握手を交わした。精根尽き果て、右タッチライン際で座り込んでいたDF伊野波雅彦のもとまで歩み寄っていった。
挨拶を終えた後は、ベンチから出てきたリザーブの選手たちとも喜びを分かち合う。そのなかには岩波のアクシデントがなければおそらくは途中で交代していたはずの、元日本代表FWハーフナー・マイク(前デン・ハーグ)も含まれていた。
「最初の試合で2点を取れて、試合にも勝てたことは言葉にできないくらい嬉しい。ヨーロッパから来て環境が違うことはもちろん大変な部分はあるけど、日を追うごとによくなっていくと思う。今日が最初の一歩だし、これからどんどん、どんどん前へ進んでいきたい」
スタジアムを去る際に、ポドルスキは静かな口調のなかに至福の喜びと不退転の決意をにじませた。勝利を求める貪欲な思いと日本に早く溶け込もうとする姿勢、そしてチームが一丸となって戦うことの大切さをも笑顔で表現しながら、ドイツ代表で一時代を築いた男の新たな挑戦が幕を開けた。
(取材・文:藤江直人)
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