稀代のゴールゲッターによる〈第二章の幕開け〉
ウェイン・ルーニーの本性は〈暴れ馬〉である。マンチェスター・ユナイテッドでプレーしていた当時は、〈名調教師〉サー・アレックス・ファーガソン〉に去勢されかけたこともあったが、凡庸なイエスマンにだけはならなかった。
ファーガソンが弄した「あの子はトランスファーリクエストを提出した」という情報操作にも決して屈せず、ユナイテッドで確固たる地位を築いたのである。
クラブの方針で近年は便利屋として使われ、ルーニー本人もコンディションを崩すケースが多かったものの、通算ゴール数はクラブ最多の253を記録し、個性派ぞろいのチームをキャプテンとしてまとめてきた。ユナイテッドの歴史に名を残す選手のひとり、といって差し支えない。
それでも、ルーニーは必要とされなかった。新シーズンのFW陣はロメル・ルカクを中心に、マーカス・ラッシュフォード、アントニー・マルシアル、ヘンリク・ムヒタリアン、ファン・マヌエル・マタ、ジェシー・リンガード。年末、もしくは来年1月にはズラタン・イブラヒモビッチと再契約する予定であり、成長著しいアンドレアス・ペレイラも定位置争いに加わってくるだろう。ルーニーの居場所は完全に失われた。
人間だれしも転機が訪れる。ルーニーの場合、もはやユナイテッドに残る意味はなくなった。彼を必要とし、ある程度の出場機会が見込まれるエバートンへの移籍は、古巣へのカムバックというノスタルジックな意味だけでなく、稀代のゴールゲッターによる〈第二章の幕開け〉だ。
ユナイテッドを覆いつくす特異なプレッシャーではなく、「ローカルライバルのリバプールより1ランクでも上なら幸せ」という自由な感覚が、ルーニーの野性を呼び起こす可能性は十分すぎるほどあるだろう。ことし10月で32歳。まだまだ老け込む歳ではない。
「ルーニーは依然として世界でもトップクラスのアタッカーだ。試合数をこなしながらフィジカルフィットネスを整えていけば、20ゴールは期待できる」
ロナルド・クーマン監督も、超大物の帰還を手放しで喜んでいた。