ボス監督が提示した新たな攻撃の形。クライフ派のチーム改革
それでは、今季から指揮を取るピーター・ボスはどうだろうか。直近のテストマッチである7月22日のボーフム戦では、36分に高い位置で奪い返して、シュールレがミドルシュートまで持っていく場面もあった。しかし90分間を通してみれば、プレッシング及びゲーゲンプレッシングが徹底されていたとは言い難い。
新監督はヨハン・クライフの信奉者。戦術的にはペップに似たところがあり、ボールロスト時の守備を重視しているようだ。もちろんアジアツアーを終えてドイツに帰国したばかりでコンディションが整っていないという側面はあるだろう。それでもチームとしてどのように陣形を整え、どの位置でボールを奪おうとするのか、判然としなかった。
逆に顕著だったのは、ウインガーが比較的自由に仕掛けていたことである。アジアツアーの浦和レッズ戦やACミラン戦でもそうだったが、ボーフム戦で先発出場したモル、プリシッチ、そして75分から途中出場のデンベレの思い切りの良さが目立った。
ボスが監督を務めた昨季のアヤックスでは、ドリブラーのアミン・ユネスが活躍したが、今季のドルトムントでも、まずはウイングの攻撃力を活かすところからチーム作りを始めているようだ。オーバメヤンをフィニッシャーとして用いたトゥヘル時代とは、攻撃の方法論が違う。そして次の段階として、ウイングを軸とする攻撃へ移行するための守備組織を構築していくのではないか。それはクロップ流ともペップ流とも、少し異なるものだろう。
しかしドルトムントのサッカーは、長年に渡ってカウンターを本質としてきた。多くの選手たちに染みついているクロップのDNAを、ボスは有効に活用できるだろうか。それとも、この10年間とは異なるアイデンティティを構築するだろうか。なまじクラブの色がはっきりしているだけに、ボスにとって、このプレシーズンの作業は簡単ではなさそうだ。
(取材・文:本田千尋)
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