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ドルト新監督が挑む“クライフ流”の大改革。刻まれたクロップのDNA、難航する再構築

text by 本田千尋 photo by Getty Images

ペップ流を持ち込んだトゥヘル。ポゼッション志向も…

 代わってやってきたのは、トーマス・トゥヘル。マインツで名を馳せた青年監督は、ボールポゼッションに軸を置きつつ、プレッシングやゲーゲンプレッシングという“クロップの遺産”を有効に活用しようとした。というのも、トゥヘルが最も影響を受けた監督は、ペップ・グアルディオラだったからである。

 サッキの影響でボールロスト時の守備戦術を編み出したクロップとは別のところで、08年7月にFCバルセロナの監督に就任したペップは「5秒ルール」を考案した。「5秒ルール」とは、ボールを失って5秒間は圧力をかけて奪い返そうとするが、その間に奪えなければ、下がって陣形を整えようという「ルール」だ。このペップ流ゲーゲンプレッシングは、ボール支配率を高めるための守備戦術と言えるだろう。

 トゥヘルは、ドルトムントに「5秒ルール」を明確に適用したわけではなかったが、ポゼッションを高めるため、チーム全体の陣形を整え、攻守の切り替えを徹底した。ペップに倣ってか、ロンドを中心に据えた練習で、プレッシング、ゲーゲンプレッシングに磨きをかけていった。

 こうして遅攻に重きを置きつつ、ロイスやムヒタリアンといったスピードが持ち味のアタッカーを活かしたサッカーで、ドルトムントは巻き返しを図った。両サイドバックは高い位置を取り、全体を押し上げる。そしてペナルティエリア内のファーサイドに斜めのボールを入れて、折り返しをオーバメヤンが詰めるというのが、お決まりのパターンだ。

 トゥヘル政権初年度の2015/16シーズン、ドルトムントはリーグ戦を2位で終えることに成功している。34試合を終えて82得点と攻撃陣が爆発。得点数はリーグ最多の成績を残した。しかし、一方で失点数は34と首位バイエルンの倍を数え、守備は不安定な姿を露呈したまま。カウンターを得意とするチームの多いブンデスリーガで、敵陣に入ってポゼッションを展開しつつ、失点数を最小限に抑えることは簡単ではなかった。

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