5試合連続の先発落ち。自問し続け、何をすべきかがクリアに
むしろ苦しんだのは、体に染みついたプレースタイルを変えることだった。レイソルではボランチを主戦場として、利き足の左足から繰り出される長短の正確無比なパスでゲームを作り、アカデミーを含めたクラブ全体で志向するポゼッションサッカーの中心を担った。
翻ってベルマーレの「湘南スタイル」は、縦への速さを土台にすえる。攻守両面で相手よりも数的優位な状況を作り続け、全体のパスのうち70%を縦方向へ、と求められる。しかし、縦パスはボールを失うリスクをも背負う。頭では理解していても、いざピッチで実践するとなると難しかったのだろう。
開幕からボランチとして出場してきた秋野は、ジェフとの第5節で90分間をベンチに座ったままで終える。続くカマタマーレ讃岐戦は先発に復帰したが、チームは0‐3でまさかの大敗を喫する。そして、東京ヴェルディとの第7節以降は5試合連続で先発から外れた。
「ああいう時期があって、いまがあると思っているので。あのときは本当に苦しかったし、試合に出られないことは悔しかったけど、いま思えば僕には必要だったのかなと。ちょうど僕自身が悩んでいた時期だったので、何をするべきかをクリアにするうえで逆にいい時間でした」
小学生時代から13年間も在籍し、昨シーズンから指揮を執る下平隆宏監督のもとで主力を担う可能性も十分にあったレイソルを飛び出すに至った原点を、あらためて自問自答した。自分が変わるために来たんじゃないか――。縦への意識を強め、「湘南スタイル」へ適応するんだと何度も言い聞かせた。
プレーよりもメンタル面で悪戦苦闘しながらも少しずつ、確実に変わりつつある秋野を、曹監督は見守ってきた。あえて手は差し伸べない。自分の力ではい上がってくるのを待ち、機は熟したと判断した5月7日のFC町田ゼルビア戦から先発に復帰させた。
「レイソルにいたときよりも、もしかするとパスミスや雑な部分が増えているかもしれない。それでも目の前の試合に勝ちたい、目の前の相手に負けたくないという秋野の気持ちがピッチに落ちているのは、選手として成長するという意味で、非常にいいことだと僕は思っている」