尋常ならざる負傷者続出。際立ったシメオネの「すさまじさ」
ーー今回は昨季のアトレティコ・マドリーについてお伺いします。リーグ戦ではレアル・マドリーとバルセロナに次ぐ3位でしたが、ディエゴ・シメオネ監督の下、4年で3度目のCLベスト4進出を果たしました。
玉乃 補強がうまくいいかなかった面も含めて厳しいシーズンになったのかなと思います。立ち上がりも思わしくなく、よくここまで立て直したなと。CL準決勝の2ndレグで2点取った時(編注:1stレグはアウェイでレアル・マドリーに0-3の大敗を喫していた)は「いけるかな」と思いました。さすがシメオネ、すさまじいですね。
ーーその「すさまじさ」は具体的にどのような部分に見られるのでしょうか。
玉乃 ダイヤモンドの原石を見出し、磨く力ですね。ヤニック・カラスコもサウール・ニゲスもあそこまでの選手と誰が想像できたか。そんな彼らを世界レベルのスーパースターに押し上げた。後半戦はフェルナンド・トーレスも復活しました。
倉敷 シメオネ自身が短い契約しか結ばなかったというのもあると思いますが、去就に注目が集まっシーズンでしたね。ここ数年、レアル・マドリーと、特にCLにおける負けは今季も結局繰り返してしまいましたが、それはシメオネの気持ちを折るのに十分な出来事だったと思っているんです。中でも15/16シーズン決勝でのやられ方は、彼にとって相当ショックだったはずです(編注:延長戦も含めた120分間で1-1、PK戦の末レアル・マドリーに敗れた)。
そういう中で昨季はモチベージョンが心配されていたんですが、アトレティコは開幕から好調だったんですよ。蘇ったんだと。何の問題もなかった。それが11月頃になるとまるで勝てない状態に陥って(編注:昨年10月23日のセビージャ戦に敗れてから、12月半ばまでのリーグ戦7試合で2勝1分4敗)、もう助けられない、シメオネはここで終わってしまうんだと本気で思っていたんです。怪我人続出など、不測の事態が続いた中でよくぞ立て直したなと。そこはさすがだと思いました。何があったのか、そこに一番興味がありますね。シメオネは魔法の言葉を持っている人間ですけれども、そんな魔法の言葉で戻ってこられるような状況ではないと思っていたので。
結局ヘルマン・ブルゴスを中心としたコーチ陣と、シメオネが作っているファミリー、それからおそらくアルゼンチンの中に生き続けている「サッカーは人生だ」という取り組み方みたいなものがチーム自体を救った。アトレティコ、そしてシメオネの中にはファミリーとして立ち上がろうというような、技術や体力だけでは到底理解できないものがあるんだなと思いました。
昨季のアトレティコは苦しみましたけど、一方で蘇り始めたという見方もできます。CLでまたしてもマドリーに屈しましたが、久しぶりにCLにおける負の歴史を止めた、最後に勝ったんです(編注:CL準決勝2ndレグのレアル・マドリー戦に2-1で勝利)。
昨季の1年間でマドリーに公式戦で勝ったチームは世界に5つしかないんですよ。セビージャ、バレンシア、バルサ、セルタ、そしてアトレティコでした。つまりあの強いマドリーに勝てるチームはリーガ・エスパニョーラにしかない。CLで勝ったチームはひとつもないんですから。
尋常ならざる数の負傷者に悩まされて無事だった選手がほとんどいない状況で、シメオネらしいサッカーを続けることができて、なおかつこの先がありそうな予感がする。そう考えるとアトレティコにとって悪いシーズンではなかったんじゃないかなというのが僕の総括です。