「Jリーグだと、どのクラブも怖がってできないですよ」
エスパルスに挑んだいわきFCの選手たちは、ユニフォーム越しにもはっきりとわかるほど、筋肉が盛り上がっていた。たとえば平岡は、加入してからの約1年間で体重が5キロ増えた。こうしたアプローチがいかに異端なのかは、鄭大世が漏らした言葉が如実に物語る。
「Jリーグだと、どのクラブも怖がってできないですよ。けがをしたら、誰が責任を取るんだとなるから。それが筋肉系のけがなら、絶対にフィジカルトレーニングに原因をもっていかれる。それをやって、なおかつ十分な爪痕を残したんだから、本当にすごいことだと思いますよね」
試合は後半5分、エスパルスのMF竹内涼が豪快なミドルシュートを突き刺した瞬間に事実上、決着がついた。サッカーでゴールが生まれやすい時間のひとつとされる、前後半の開始5分までにしっかりとネットを揺らす。エスパルスの巧みな試合運びを肌で感じ取れたことが、今後への糧になると平岡は前を向く。
「2点目を決められたときは、さすがに『これがJ1クラスなのか』と思いました。応援してくれた方々には申し訳ないけど、見ていて楽しいサッカーはできていたと思う」
次なる戦いは、もう目の前に迫っている。全国社会人サッカー選手権(全社)の福島県大会をすでに制しているいわきFCは、今月下旬に開催される東北予選会に出場。そこで2位以内に入れば10月の全社決勝大会に駒を進め、3位以内で地域サッカーチャンピオンズリーグへの出場権を得る。
毎年11月に開催されるこの大会で2位以内に入れば、JFLへの昇格権を獲得できる。7部相当のカテゴリーから東北社会人リーグ2部、同1部を飛び越してJFL入りできる可能性を、自分たちのパフォーマンス次第でつかみ取れる。だからこそ、立ち止まっている時間はない。
「悔しいけど、僕たちの目標は今回の天皇杯で優勝することじゃない。いい形で今後へつなげていける戦いだったし、これからもハードな筋トレを積んで、さらに体を大きくしていきたい」
試合後のIAIスタジアム日本平のピッチには、エスパルスのファンやサポーターによる万雷の拍手が降り注いだ。果敢なる挑戦の序章ともいえる90分間に、誰もが胸を打たれた。いわきFCの選手たちはエスパルスのゴール裏まで足を運び、頭を下げて感謝の思いを伝えながら、もっともっと強くなると誓っていた。
(取材・文:藤江直人)
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