負けないサッカーvs見ていて、やっていて楽しいサッカー
だが、サッカーがビジネスとしてグローバルに展開され、ワールドカップなどビッグタイトルが大きなビジネスに結びつくようになると、アンチフットボールは半世紀前とは違う方向に進んでいった。
テレビ放映が普及してからは、さすがに犯罪まがいの暴力やあからさまなファウルは許されなくなったものの、勝利第一主義のせいで内容が乏しいという意味でのアンチフットボールが増えていった。
「EURO2016ポルトガルの‘アンチフットボール’度はどれくらいか?」というgoal.comの記事には、歴代の「アンチフットボール」チームがあげられている。
まずは1990年ワールドカップ、イタリア大会のアルゼンチン代表。決勝までの全7試合であげたのは5ゴールのみ、決勝トーナメントではブラジルに1-0で勝利したものの、ユーゴスラビアとイタリアはPK戦でかろうじて退け、決勝では西ドイツに1-0で敗れたものの、85分までゴールを許さなかった。
1992-1995年のアーセナルも、ジョージ・グラハム監督がよく言えば規律を重んじる守備的な手堅いサッカーを徹底し、好成績を残したものの、つまらない、アンチフットボールだ、と選手側からも非難された。
メッシが「アンチフットボール」とあからさまに非難したのは、2007年チャンピオンズリーグで対戦したレンジャースだった(ザ・ガーディアン 2007年10月25日付)。スコアレスドローに終わった試合後、メッシは怒りをにじませてこうコメントした。
「信じられない。レンジャースはサッカーをやりたがっていなかった。キックオフ直後から、彼らはアンチフットボールに徹していた。(中略)我々は疲れたが、彼らだって勝つつもりがない試合をやるのはおもしろくなかっただろう。だからペースが落ちるのは避けられなかった」
こうやって見てくると、サッカーがグローバルビジネスになってからアンチフットボールと非難される理由は、1)守備的に戦うゆえに得点が(極端に)少ない、2)最初から引き分けを狙って勝利を捨ててかかる、3)創造性や娯楽性に乏しい、という要素がアンチフットボールという非難につながるようだ。
見ていて、やっていて楽しいサッカーか、それとも負けないことに徹するか。ファンの答えはきっと「楽しいサッカーが見たい」になるだろうが、タイトルや降格がかかった監督や選手にとっては、アンチフットボールを選択するか否かは悩ましいところだろう。
(文:実川元子)
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