W杯でドイツに見せつけられた国産戦力の質と層の差
イングランドFA(協会)が育成改革の新たな指針を正式に打ち出したのは5年前。端的に言えば、フィジカルではなくテクニックへと指導の重点を切り替えるべく、育成に関するシステムとコーチ陣の改善が図られることになった。
同12年には、新たに指導者と代表選手の育成ハブとなるセント・ジョージズ・パークも開設されている。
実際の育成は大半をクラブの下部組織に頼ることになるが、FAは10年W杯でドイツに国産戦力の質と層の差を見せつけられた直後から、プレミアリーグとの協調にも力を入れ始めていた。
その一環として、やはり12年に実現したEPPP(エリート・プレーヤー・パフォーマンス・プラン)の導入がある。
このエリート選手育成方針には、アカデミー運営に求められる費用の増加や、強豪によるユース選手引き抜きを助長しかねない育成賠償金の固定などに関して悲観的な声もあった。
しかし、アカデミーの等級分けを従来の2段階から4段階へと厳密化し、潜在能力の高い若手により充実した育成環境を用意するメリットは否定し難い。
好例が、過去5年間でFAユースカップ4連覇とUEFAユースリーグ2連覇を含む国内外計9冠と、アカデミー界でも勢力と化したチェルシー。
8歳から所属していたソランケを含めれば、U-20W杯決勝のスタメンに3名を送り出し、U-21代表でもルーベン・ロフタス=チーク、ナサニエル・チャロバー、ルイス・ベイカーのMF陣がベスト4入りに貢献している。
チェルシーのアカデミーは、EPPP下で最高ランクのカテゴリー1等級。夜間照明付きのピッチ、全天候型の屋内施設、スタッフのフルタイム雇用、一般教育プログラムの充実など、満たすべき条件は多く費用もかさむが、その見返りとして、アカデミーに1時間半以内で通える圏内という条件に縛られずに選手を入団させることを認められる。
獲得したユース選手には、以前は週に2、3日に限られた指導を毎日行うことが許される。そこには、ハードとソフトの両面でエリート選手を養成しやすい仕組みが存在する。